ケアの社会化と再家族化から考える介護者支援の必要性

ヤングケアラーの実態把握

病気や障害などのある家族の介護をする18歳未満の子どもは「ヤングケアラー」と言われています。ヤングケアラーは、介護に時間をとられるため学業や進路に支障が出る場合もあり、支援が必要ではないかとメディアでもとりあげられるようになりましたが、現在のところ、実態はわかっていません。2020年度内に、全国の教育現場を対象にした初の実態調査が厚生労働省にて実施されることとなりました。

「ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実―」において、澁谷智子氏は、元ヤングケアラーの語りからヤングケアラーの実態を分析しています。介護についての情報を得ることもなく、目の前の介護をこなしていること、家事や介護が中心の生活であり、学校の欠席や遅刻が増え、学業不振に陥り、不登校、退学へと進んでしまう場合があること、心理的なストレスが大きいが、そこからの逃げ道もないこと、将来について考えることが難しいことなどが挙げられています。

ケアの社会化

平成11年の厚生白書内で介護保険制度を含む社会保障は、私的な相互扶助の代替えであり、ケアの社会化である(※1)ことが明記されています。介護保険制度開始以降、要介護認定者、サービス利用者、サービス供給体制は拡大の一途であり、社会の認識も介護は社会保障内にある、ケアは社会化されていると捉えられていると考えられます。

介護保険制度では、要介護状態にある個人を中心とした支援を組み立てます。私的な相互扶助の代替えの位置付けであり、ケアを家族と切り離します。しかし、制度開始以降、複数回の見直しの中で、予防給付の設定によるケアを必要と認定する範囲の縮小、在宅での家事援助の給付抑制が行われています。つまり、家族にケアが揺り戻される状況があるといえます。

介護環境の変化

国民生活基礎調査(※2)において、世帯の状況は、三世代同居の割合が、H13年は10.6%でしたが、H28年は5.9%、核家族世帯は、58.9%から60.5%、単独世帯は24.1%から26.9%へと変化しています。世帯構成は小さくなり、家族の全員が、家事や介護の担い手になっている可能性が高くなっています。

平成30年国民生活基礎調査(平成28年)の結果からグラフでみる世帯の状況抜粋

要介護者等からみた主な介護者の続柄については、同居の主たる介護者のうち、子の配偶者の割合は、H13年は22.5%でしたが、H28年は9.7%に減少、別居の家族による介護は7.5%から12.2%、事業者は9.3%から13%に上昇しています。また、同居の介護者の性別は、H13年に比べ、H28年は男性の割合が増加しています。ただ、主な介護者は、依然として家族等のインフォーマルな介護者が担っているという現実は変わっていません。

また、平成 29 年の就業構造基本調査(※3)において、就業状態、介護の有無別にみると(15歳以上就労人口)介護をしている者は 627.6 万人うち、55.1%が有業者でした。介護をしている者の男女別有業率は、男性は 65.3%,女性は 49.3%でした。

介護者支援の取り組み

介護保険も、社会の様相・介護者の様相も変化しています。介護者の問題は、ヤングケアラー、老々介護、男性介護者、ダブルケア、就労との両立など継続して提起されています。介護者支援の先進国といわれるイギリスやオーストラリア、フィンランド等では、介護者支援を具体的に掲げ、それを介護者の権利として法律で認めています。

日本では埼玉県においてはじめて、介護者支援条例(※4)が2020年3月に施行されました。介護者に焦点を当てた全国初の条例で、介護者を「高齢、障害などにより援助が必要な親族、友人などに対し、無償で介護、看護、日常の世話などをする人」と定義しています。依存症やひきこもりの家族を支える人など、幅広く設定し介護者を「見えない存在から見える存在」にしました。自治体や事業者、県民の役割を明示、介護者の心身の不調や社会的な孤立を、社会全体で支える仕組みとしています。相談窓口の設置、介護ネットワークの構築など具体的な支援も提示されました。

現在、介護保険制度では「地域包括ケア」が導入され、より一層、地域・在宅での介護が促進されています。要介護者への居宅サービスは普及したものの、介護者の中心は、依然、家族介護者であり、介護を担う家族介護者の役割は大きくなっていると考えられます。また、世帯が小さくなり、誰もが介護を担う社会になってきています。介護者も就学・就労などの社会参加をすることができる、介護者の視点から制度検証、制度改革が求められています。

(※1)須田木綿子ら(編著)東アジアの高齢者ケア 国・地域・家族のゆくえ,東信堂,2018,P281 
(※2)国民生活基礎調査 国民の生活に関する全国調査。3年ごとに実施されている。「介護票」によって在宅での介護に関する調査がある。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html
(※3)就業構造基本調査 国民の就業及び不就業の状態の調査。現在は5年ごとに実施している。育児・介護に関する調査項目がある。
平成 29 年就業構造基本調査 結果の概要 
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf
(※4)埼玉県ケアラー支援条例
http://www.pref.saitama.lg.jp/a0609/chiikihoukatukea/jourei.html

参考文書
澁谷智子 ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実―2018年,中央公論新社
内閣府 高齢社会白書
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html

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ソシエタス総合研究所 主任研究員井上 登紀子
岡山県出身。社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所にて主にサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム、在宅介護サービスに関する量的・質的調査を行う。全国のサービス付き高齢者向け住宅の評価事業(旧サ住協)、高齢者住宅居住者のケアマネージメントの調査事業(大阪府)を実施。2019年~公益財団法人橋本財団 ソシエタス総合研究所に勤務。
岡山県出身。社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所にて主にサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム、在宅介護サービスに関する量的・質的調査を行う。全国のサービス付き高齢者向け住宅の評価事業(旧サ住協)、高齢者住宅居住者のケアマネージメントの調査事業(大阪府)を実施。2019年~公益財団法人橋本財団 ソシエタス総合研究所に勤務。
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