デンマークと日本との高齢者ケアについての比較では、デンマークのすべてが日本より勝っていると言われがちであるが、今回は両者の比較を、在宅介護の視点から行いたい。
両者でまず一致しているのは(他の諸外国も同じ)、高齢者は自宅に留まって生活するのが最良の方法である事だ。日本での高齢者に対するアンケートで、約2割の人が老人ホームを住まいとして選択するが、その最も大きな理由として、「家族に迷惑をかけたくないこと」が挙げられている。それを考えると、高齢者自身の本音は、圧倒的に自宅に住み続ける事だろう。
「住まいは高齢者ケアの基本である」に則って言えば、高齢で障害があっても、最良の住まいである自宅での居住を継続する事は、最も重要な選択であると言える。
自宅での生活は、2種類の形態が考えられる。一つ目は、「介護者と一緒に自宅で生活している場合」、二つ目は、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」である。介護者と一緒に生活する場合とは、子と同居世帯や多くの高齢者夫婦世帯であり、介護者が乏しい状態とは、高齢者夫婦世帯の一部と高齢者単独世帯だ。
「介護者と一緒に自宅で生活する場合」は、介護者が介護の主体となり、それを支えるために公的居宅サービスが加えられる。主たる介護は一緒に生活している介護者が担当するので、公的居宅サービスの目的は、介護者の過度の負担を除く事になる。公的居宅サービスは、細かい介護内容をいちいち検討する必要は無い。従って、「介護者と一緒に自宅で生活する場合」の居宅サービスは、介護者の過度の負担を除くための、デイサービスや滞在型の訪問サービスとなるだろう。一方で、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」は、公的居宅サービスが介護の主体とならざるを得ない。高齢者の細かい生活にまで目を配らせ、頻回の援助を行う。「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」の公的居宅サービスは、巡回型の短時間訪問を主体とした介護になる。どちらが難しくて、どちらが簡単であるかは明白で、後者の巡回型訪問介護を行う方がはるかに技術的に困難である。「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」が増加しているにも関わらず、この分野で、ケアマネジメントの能力の不足が著しい。
日本で、介護保険が始まった時期は、「介護者と一緒に自宅で生活する世帯」が多かったので、公的居宅サービスは、介護者の負担を除くようなサービスとなった。一緒に生活する介護者があくまでも主役であった為、公的居宅サービスとして、デイサービスや、滞在型の訪問介護が行われてきた。介護保険発足から15年以上経過した現在、高齢者の居住状態は大きく変化した。「介護者と一緒に自宅で生活する世帯」の急速な減少と、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する世帯」の増加である。しかし、公的居宅サービスはその性格を変化させず、あくまでも「介護者と一緒に自宅で生活する場合」を前提として、介護者の負担を除くサービスに終始していたために、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」には、きめ細かい公的居宅サービスが行われず、高齢者は勢い施設への道しか残されなくなったのである。
デンマークでは、日本と違い、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する世帯」の増加に合わせ、公的居宅サービスを変化させてきた。高齢者の生活に対応した巡回型訪問サービスが出来上がっていったのである。その結果、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」であっても、最良の場所である自宅で暮らす事が出来るような社会が、出来上がっているのである。
高齢者単独世帯あるいは高齢者夫婦世帯が増加したのは、デンマークが先行し、30年後に日本も同様な形態に移行している。問題は、子と同居世帯から、高齢者単独あるいは高齢者夫婦世帯への移行に、社会政策を合わせられるかどうかなのである。日本の他の政策においても、社会環境の変化に対して、柔軟に制度を変化させることが出来ない状態だ。これは政治の能力と見られがちであるが、本当のところは、日本人自体が、保守的であり、農耕民族的で、外圧がないと変えられない、つまり、自分から変化しようとしない性質にあるのかもしれない。
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