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食べていても痩せる 高齢者終末期のカヘキシア(悪液質)

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食べていても痩せる。活発に運動を続けている人なら不思議に思わないが、介護度の高い高齢者にそのようなことが果たして起こるのだろうか。起こるのであれば、それはカヘキシアという病態であれば説明できる。

 

カヘキシア(悪液質)

カヘキシアとは、食欲不振・体重減少・全身衰弱・倦怠感などを呈し、生命予後やQOL(quality of life)に多大な影響を与える病態で、進行性の死に至る病態である。体重減少については、脂肪組織の減少の有無にかかわらず、進行性の著しい筋組織の減少が見られることが特徴である。

 

カヘキシアをもたらす疾患は、がん、AIDS・マラリアなどの慢性感染症、関節リウマチ、心不全・慢性閉塞性肺疾患・肝不全・腎不全などの臓器不全、と さまざまであるが、飢餓や加齢に伴う筋肉量の減少(サルコペニア)、さらにうつ病、消化吸収不良、甲状腺機能亢進症などとは区別されなければならない。

 

がんを用いた実験によると、がん組織と宿主間の相互反応によって産生された炎症性サイトカインが、脳と末梢の二つのレベルで作用し、代謝異常や食欲不振を惹き起こすことが明らかとなっているが、高齢者認知症の終末期でも同様の病態があるのではないかと考えてみた。

 

こんなことを考えていた時、「食べていても痩せる」という症例に再び遭遇した。80歳、女性、アルツハイマー型認知症である。

1年間の体重変動を見ると、死亡までの9ヵ月間で20%の体重減少が見られ、前半の6月から10月までの4ヵ月間の体重減少は3.85kg、体重比9.8%であった。この間、食事は全量摂取であったので、食べていても痩せていたことになり、「カヘキシア」を疑った。

そこで、高齢者施設における死亡者の体重の変動と食事摂取の状況について、以前の勤務地である鳥取県と現在の広島県の2地域、3施設で調査を行うことにした。

 

施設死亡者のカヘキシアに関する調査

調査は、鳥取県と広島県の老健2施設、特養1施設、計3施設で行った。入所期間4ヵ月以上の、経口摂取で看取った人101名、平均年令90歳を対象として、死亡前1年間の体重減少、カロリー摂取の低下、悪液質状態の有無、併存疾患を調査した。
カヘキシアの判定基準は3項目。体重減少があり、6ヵ月以下の期間で、BMI 25未満の場合体重の10%以上、BMI 18.5未満で5%以上を示すこと。カロリー摂取量が寝たきり高齢者の1日の必要エネルギー20~15Cal/㎏を下回ること、炎症・臓器不全・がん・認知症などを合併していること、の3条件である。

 

調査結果

経口摂取で看取りとなった入所者は3施設あわせて101名で、このうち6か月以内に5%以上のカヘキシア相当の体重減少を認めたものは90名、うち「体重減少」と「カロリー摂取低下」を認め、カヘキシアと判断したものは80名であった。

体重減少とカロリー摂取低下を時系列でみると、「カロリー摂取低下」に先行する「体重減少」を認めたものは52名、死亡者の50%、反対に「カロリー摂取低下」が先行するのはわずか1例で、体重減少とカロリー摂取減少がほぼ同時期に起こったものは26例であった。このことから、高齢者終末期の体重減少の多くは栄養摂取低下による飢餓ではなく、カヘキシアが原因であると考えた。

体重減少に関わる各指標の平均を見ると、減少開始時の体重 41.1kg、減少体重 6.5kg、体重比16%、体重減少開始から死亡までの期間 7.3ヵ月、カロリー摂取低下から死亡まで4.1ヵ月。5%以上の体重減少に気づくのに2~3ヵ月を要するとすれば、「体重減少」と「カロリー摂取低下」は、ほぼ同じ頃に気づくことになる。

 

調査結果の示唆すること

以上の結果から、高齢者終末期の予後予測は、体重減少とカロリー摂取低下に注目することにより可能と考えた。その原因を「カヘキシア」と考えれば、胃ろうなどの積極的な人工栄養を差し控えて、本来の経口摂取の工夫に努める。それが難しい時は「看取り」に入る根拠とする。これらのことを家族と段階を追って話し合えば、緩和ケアにかなった穏やかな看取りができるのではないかと、思うのである。

 

鳥取市立病院 名誉院長田中 紀章
昭和43年大学卒業後、平成8年から大学にて、がん医療、肝移植、再生医療、緩和医療分野で活動。その後、鳥取での勤務において高齢者医療・地域医療の問題に直面し、病院の組織改革に取り組んだ。現在は、鳥取と岡山の二つの介護施設で臨床に従事する。
昭和43年大学卒業後、平成8年から大学にて、がん医療、肝移植、再生医療、緩和医療分野で活動。その後、鳥取での勤務において高齢者医療・地域医療の問題に直面し、病院の組織改革に取り組んだ。現在は、鳥取と岡山の二つの介護施設で臨床に従事する。
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