医療崩壊

ある日の外来。朝の9時から診察室に座りっぱなしでそろそろ3時間が経過。既に再診患だけではなく、その日の新患も回ってきます。で、そうした中に問題のおじさんがいました。

「今、○○クリニックで薬をもらっていまして・・・」
「30日分貰っているのですが、お腹が痛くなったので、診てもらいに来ました」
「○○先生の紹介で、先週XX病院で胃の内視鏡検査を受けました」
「XX病院では、毎年大腸もカメラで観て頂いて、ポリープを取ってもらっています」

私が質問する間もなく、私がカルテに記入するのを見ながら、矢継ぎ早に語ったことでした。お腹が痛んでいる様子もなく、場慣れした話し方に、そろそろ血糖値が下がり始めた私の頭の中で、何かがパチンと弾けました。
「持っておられるお薬を拝見すると、お腹の痛みに効く薬も出ているようですし、先ずは、かかりつけの○○先生にご相談されるのが良いのではないですか?」とお伝えしました。

「いえいえ、まだ次の診察日は先ですし。それに、薬を貰うだけですので」
「えっ、診察はないのですか?」
「毎月採血はありますが、ちょっと話を聞くだけです・・。そう言えば、検査の結果は聞いてませんわ、アハハ・・・。」

 

『あんた、病院へ何しに行ってんの?!』 

 

ここはぐっと抑えて、
「これまでのあなたの身体の状態や検査データは○○先生が一番よくご存じなのだし、せっかくXX病院で検査も受けておられるのなら、どちらかに相談される方が早いので、その方が良いのではないですか」
「いやいや、まだ行く時期ではないので」
「ちょっと待ってくださいよ。症状が悪くなれば、薬が無くなるまで待っていてはいけないでしょう。まさか、早目に病院に来たから診ないとは〇〇先生もおっしゃらないと思いますよ」
「だから、こちらへ伺ったのですが・・」

 

どうやら、傍目には漫才のような押し問答になってしまい、暖簾に腕押し状態。

「それでは、こちらでも診させて頂きますが、全く初めてですし、一から調べ直しになりますが、よろしいですか」「それから、次の来院の時には、是非○○先生での検査データを貰ってきてくださいませんか」
「はい、いろいろ調べてください。でも、データを貰えるかなぁ・・・。」
「でもね、診察や検査もさせてもらいますけど、あなたの様な方が、医療費を増やして、挙句は医者が悪く言われて、今起きている医療崩壊を進めているのですよ。それに、あなた一人を、一体何人の医者が診たらお気が済むのですかねぇ」
「はぁ↗??」
「いえいえ、これは私の独り言です」

 

結局、診察までに必要以上の労力と時間を費やすことになりましたが、今になって、こんなことで怒った自分に『まだまだ修行が足りない』と腹を立てています。

※この原稿は、随分前に書いたものですが、最近になっても同じ状況(いや、もっとひどい状況)が繰り返されていることから、自らの至らなさを棚に上げて投稿することにしました。皆様の周りでは如何なのでしょうか。これを読まれた医療関係者の方々は、もっと賢く対応されておられることと想像しますが、どのように対応されているのかとても興味が有る事ではあります。

また、患者さんの立場の読者の方々は、まさかこんなことをしていないとは思いますが、もしされているならその方々に一言。

「あなたが医療崩壊の元凶です!」

医療法人 寺田病院 院長板野 聡
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
専門は、消化器外科、消化器内視鏡。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職に。
著書に、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)、「貴方の最期、看取ります」(電子書籍/POD 22世紀アート)、「医局で一休み 上・下巻」(電子書籍/POD 22世紀アート)。
資格は、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、がん治療認定医、三重県警察医、ほか。
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
専門は、消化器外科、消化器内視鏡。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職に。
著書に、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)、「貴方の最期、看取ります」(電子書籍/POD 22世紀アート)、「医局で一休み 上・下巻」(電子書籍/POD 22世紀アート)。
資格は、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、がん治療認定医、三重県警察医、ほか。
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