ミャンマーで起きたクーデターと、それに基づく軍事政権への再帰はあっという間に起きました。アウン・サン・スー・チーが率いるNLDの政権と民主政治は結局のところ4年で終わってしまったということになります。
俯瞰してみると、この出来事は21世紀に世界中で起きる地政学的な変動の一つなのだと思います。中国が世界の超大国に返り咲こうとするなかで、民主主義や自由権の尊重といったものが普遍的な価値であるとみなされた時代が終わり、各国の政治制度や機構が再び多様化していく過程の中に私たちは生きているのだと思います。
20世紀までにおいては、民主主義や自由権の尊重は西側諸国から支援を取り付けるための基本条件でした。国内経済が不安定になると自分の首が危うくなるので、多くの独裁者たちも、ある程度バランスを取ってきました。しかし、中国の台頭により、自国では独裁政治をしながらも、中国からの支援を安定的に取り付けることは可能となりました。例えばカンボジアでは、2017年に最大野党が国家反逆罪により解党させられましたが、結果的に起きたことはEUからの関税優遇措置撤廃と、中国からの投資増加と関係強化でした。
そもそも民主主義という政治形態は、歴史上のある一部の期間に、ある一部の地域でだけ機能してきたものです。ダロン・アセモグルは、民主主義は民衆の力と政府の力が微妙に均衡するところでのみ成り立つ制度であると喝破しました。エマニュエル・トッドも、民主主義は有権者が同じ程度の知識水準と地元に対する理解をもっていてこそ可能であると説きました。両者の主張に共通することは、民主主義はすべての国が発展の過程に至る最終最善の解などではなく、ある時期に奇跡のように生まれる均衡状態であるということです。技術進歩により格差が拡大している現代においては、民主主義が成立する基盤は極めて危うくなっているというのが実情だと思います。
言い換えると、政治制度というのは一つの形態に収束するものではないのです。「すべての国は将来的には民主主義や自由権尊重に向かう」というのは、第二次世界大戦後に、パックス・アメリカーナの世界において流布した幻想だったのだと思います。
例えば、会社においても、ガバナンスを強く利かせる会社もあれば、ガバナンスを軽視する企業もあります。確かにガバナンスを利かせることで業績を伸ばしている企業もありますが、オーナー企業などでは過度にガバナンスを利かせることでその会社の良さを殺してしまう場合もあります。重要なことは、組織の構成員や土地にあった仕組みをつくり、パフォーマンスを最大化させることです。組織論に一般解はなく、あるのは固有解のみだと思います。
改めて私の立場を表明しておくと、私の専攻は日本国憲法と人権論でしたし、大学一年生の頃には人権弁護士になろうと思っていました。自分が創設したNPO法人の名前はLiving in Peaceですが、これは日本国憲法前文の平和に生きる権利に由来しています。ですので、今起きていることは個人的には極めて悲しいことですが、私は実務家ですので、現実的にものを考えたいと思っています。
ただし、民主主義の死は、鎖国や交易の廃止を意味していません。民主主義が生まれるはるか前から、人々は異なる文化や宗教を持つ人々と交易をしてきました。「相互の利益のために、フェアな条件で取引を行う」というのは、民主主義よりもはるかに堅牢で長続きしてきた価値観です。ピーター・フランコパンが語っていたように、世界はずっとグローバルに交易を行ってきたのです。
ですので、今後のミャンマーにおいても、外国人である私たちがミャンマーで仕事を継続することができる可能性は相応に高いと考えています。それに、こういった商売上の関係維持とそれに基づくコミュニケーションは、世界中で平和を維持するための基盤にもなります。産業人ができる国際貢献は、こういうときだからこそ、事業を地道に続けることではないでしょうか。
弊社は、世界中に金融包摂を拡げるために設立されました。ミャンマーでは金融サービスの浸透が他国に較べても遅れており、今も多くの人が良質で低価格な金融サービスを必要としています。そのような人々がいる限り、そして、事業をすることが可能な限り、私たちは事業を通じてより多くの人々により良い金融サービスを届けていきたいと考えています。
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