開発途上国での従業員教育

慎泰俊と申します。「五常・アンド・カンパニー」という会社を経営しています。五常は、アジアの発展途上国でマイクロファイナンスを行っている会社です。世界人口約73 億人のうち、金融機関に口座をもたない人は25 億人以上いると推計されています。その多くは途上国に住む貧困層です。日本では金融アクセスがすべての人に当然のように提供されているので、理解されにくいかもしれませんが、これは深刻な問題です。銀行口座が無いとお金を安心して貯めることができませんし、日本人であれば皆が入っている国民健康保険にも入ることができません。自分で事業を起こそうとしても、その資金は自分で貯めないといけません。このような人たちに提供される小額融資(マイクロクレジット)、預金(マイクロセービング)、保険(マイクロインシュランス)などの小規模金融サービスをマイクロファイナンスと言います。

例えば、途上国の人が衣服を作り商売をするにしても、手縫いでは多くの服を作ることができません。ミシンがあるだけで生産性が何倍にもなりますが、そのためのお金が無いのでは、その日暮らし分しか稼ぐことができず、今の生活サイクルから抜け出すことは不可能です。


そこで、1万円を借りてミシンを買えば、手作業で裁縫をするよりはるかに多くの服を作って売ることができるので、利息付きでお金を返しても、手元にお金が残るようになります。私たちは現在カンボジア、ミャンマー、スリランカ、インドの4カ国で5万人以上の人々に金融サービスを提供しています。私はほぼ毎月各国を訪問しています。

 

その訪問時には経営会議や現場訪問なども行うのですが、もう一つ欠かさずに行っている事があります。それは、現地社員向けのトレーニングです。毎月現地を訪問すると現地社員向けのトレーニングを実施しています。これまで行ったトレーニングは、Excelの使い方やロジカル・シンキングなどから始まり、問題解決、リーダーシップやコミュニケーションの基本など多岐に及び、私が作った資料の数は400ページを超えました。日本でもこの品質のトレーニングは、そう簡単には受けられないと言えるような内容のものを提供しています。

これを行っている理由はいくつかあります。

 

第一に、経営の質を高めていくためには、従業員達の知識向上が重要であるためです。高度な事を行おうとしても、従業員達がそれを理解できない場合、その戦略を実行することができません。将来のための布石として、従業員の知識水準を高めておこうというわけです。

 

第二に、将来のリーダー達を見つけるためです。トレーニングの実施後には従業員達にその内容に基づいたテストを受けてもらっていますが、このプロセスを経ると、従業員一人一人の飲み込みの早さだけではなく、物事を理解するために反復継続する知的忍耐力、自分の理解の狭さを理解し新しく物事を学ぼうとする知的誠実さなども把握することができます。さらに言えば、試験を前にして同僚に勉強を教えようとするようなリーダーシップさえも判断することができるようになります。

 

第三に、このトレーニングは社員と私のコミュニケーションの場となっている事です。トレーニングでは当然の如く、様々な事例をもとに説明を行うのですが、そういったケーススタディを通じて、私が何を考えているのか、何を大切にしているのかを従業員達に直接教える事ができます。単に講話のように何かを伝えるよりは、すぐに役立つスキルを教えながら価値観を伝える方が効率的であろうと思っています。

 

最後に、私個人の途上国に対する貢献のためです。いくら一生懸命にトレーニングを提供しても、少なくない従業員達が当社を退職していきます。途上国の平均年間離職率は年間30%、当社ではそれが10%台に抑えられてはいますが、それでも日本よりはるかに早いスピードで人がいなくなります。それでも、当社の出身者がここで学んだことを活かし、新しい職場で活躍してくれるのであれば、それは回り回って私が働いている国の発展に資するのだと信じています。

社長が自ら従業員教育をする会社はいくつかあります。例えばマッキンゼーの日本法人ができた当初、大前研一さんは、コンサルタント達に自ら教育を行っていたといいます。当時作成した資料は2000ページを超えたそうで、私などはまだまだだなと痛感させられます。そういった一見地道なことが組織の土台をつくり、国の発展の礎になるのであろうと思っています。

従業員達のトレーニングへの参加姿勢も真剣そのものです。これは、途上国においては特に、学んだことが多ければ多いほどよりよい仕事・よいポジションにつけることが分かっているからなのですが、皆がその場で何か一つでも学びを得て活かしていこうという気迫をひしひしと感じます。教える立場冥利に尽きるような生徒に囲まれ、今日もエアコンの利かない現地の部屋の熱気の中、従業員達にトレーニングをしています。
現地の写真をご覧下さい。

ミシンはマイクロクレジットによる設備投資として最も有名なものです。ミシンが有るだけで生産性が格段に上がります。

彼女はマイクロクレジットで牛を買い育てています。私達「五常」の顧客の多くは、お母さん達です。

五常は途上国の貧困層(主に女性)に経済的自立のための金融を提供しています。融資金額は最小2万円ですが、彼女たちには決して小さくないお金です。

多くの場合、ローン返済は集会場で行っています。集金を効率化できますし、顔見知りが集まる場ではお金を返そうとするからです。五常での延滞率は0.5%未満です。

カンボジアの現場社員のミーティング。現場の声を吸い上げるために定期的に開催しています。

五常・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役社長慎 泰俊
1981年東京生まれ。 朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年7月に五常・アンド・カンパニー設立。仕事の傍ら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立し、代表理事を務める。著書に「働きながら、社会を変える。~ビジネスパーソン『子どもの貧困』に 挑む」(英治出版)、「ソーシャルファイナンス革命 ~世界を変えるお金の集め方」(技術評論社)など。
1981年東京生まれ。 朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年7月に五常・アンド・カンパニー設立。仕事の傍ら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立し、代表理事を務める。著書に「働きながら、社会を変える。~ビジネスパーソン『子どもの貧困』に 挑む」(英治出版)、「ソーシャルファイナンス革命 ~世界を変えるお金の集め方」(技術評論社)など。

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