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民主主義と自由権はそろそろ終わるかもしれない

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慎泰俊と申します。「五常・アンド・カンパニー」という会社を経営しています。
五常・アンド・カンパニーは、カンボジア・スリランカ・ミャンマー・インド等で現地子会社・関連会社を通じ、小規模金融サービスであるマイクロファイナンス事業を、展開しています。金融アクセスは機会の平等実現において、極めて重要な役割を果たします。貧しい暮らしを余儀なくされている方々の生活向上のために、良質な金融サービスの提供を行っています。2030年までに民間版の世界銀行を作り、ほぼ全ての途上国で1億人以上の人々に金融アクセスを提供することを、当面のミッションとしています。

さて、このような事業を行う私が最近懸念している件があります。それは「民主主義と自由権はそろそろ終わるのではないか」ということです。3つの理由と共にお話したいと思います。

1. 自由権や民主主義を重視しない中国型支援の拡大


これは先日(7月末)のEconomistのBriefingにも書かれていたのですが、世界中の財政が苦しい国が、凄まじい勢いで中国の経済支援に依存するようになっています。基本ツールは投融資(主に融資)です。人権や民主主義を尊重しなければ、早々に資金を引き上げる欧米諸国ドナーと違い、中国は自国に友好的である限りにおいて援助を続けます。独裁者たちにとって、欧米ドナーからの資金・技術援助の取り止めは、経済の停滞につながるだけでなく、不況は自分たちの国内での地位を危うくするため、それに従ってきました。しかし、今や中国と良好な関係を維持するだけで、国内での専制政治が許され、それでも経済は伸び続けるのです。(少なくとも、東南アジア・南アジア・サハラ以南アフリカではそういう事象がよく見かけられます)

あと10年もこの状況が続くと、恐らく基本的な自由権がきちんと保障され、民主主義が重視される国の数は、世界ではマイノリティになるのではないでしょうか。

なお、中国からの融資は決して安いものではありません。返し続けられている間は良いのですが、それが困難になると、何かを奪われるのです。借金のために、スリランカの経済首都であるコロンボ中心地の港は、99年間中国の物になりました。そのことに諸国が気付いたら物事は変わるのかもしれませんが、気付いた時には手遅れなのかもしれません。

2. 自由と民主主義が生産性向上を抑止しているかもしれない


いつの世もその時代における根幹技術を制する国が世界をリードする訳ですが、今後一定期間における根幹技術はコンピューターのアルゴリズムでしょう。良いアルゴリズムは機械の性能も高めるし、人間行動を把握してその消費活動や生産活動をさらに効率化させ、結果として経済発展をもたらします。

より良いアルゴリズムを作るために最も大切なものは偏りがない全量データです。ただし、個人のプライバシーや企業秘密が神聖な権利となっている社会では、私人や私企業の全情報を総動員してアルゴリズムを作ることは極めて困難です。

ところが、中国ならそれができます。例えば中国企業によるアルゴリズム融資の精度は非常に高いのですが、これは個人情報保護を完全無視しているからこそ達成できることです。融資に限らず、中国産の生産機械や兵器の性能も、今後10年のうちに飛躍的に向上するのかもしれません。

歴史を世紀単位で見ると、生産能力向上の障壁になるような社会制度はどこかのタイミングで変化を余儀なくされてきました。むしろ巨視的に見ると、社会制度そのものが、その時代の技術的環境における生産能力を最大化するように変化してきた、というのがマルクスの主張だったのです。やはりマルクスは正しかった、と少し先の未来で言われるのかもしれません。結果として訪れる社会が、彼の想像したものだったとは思えないのですが。

3. 民意が操作される時代に民主主義が本当に成立するのか問題


そもそも民主主義が正しい結論をもたらす為には「みんなの意見は案外正しい」1)に詳しくあるように、集団として「多様性」「独立性」「分散性」の確保と、意見集約メカニズムとしての「集約性」の担保という4つの要件を満たすなど、いくつか前提があります。
1)「みんなの意見は案外正しい」 (角川文庫) ジェームズ・スロウィッキー著 多様な集団が到達する結論は、一人の専門家の意見もつねに優る、というこれまでの常識とは正反対の説を提示し、ウェブ時代の新しいパラダイムを予見した書。

確かに、個々人がバイアスを受けず、自律的に行った意思決定の集合体は、最も賢い個人の意思決定より、優れています。しかし、アルゴリズムが進歩して人間の意思決定を誘導することができるようになった現代において、群衆の叡智は本当に機能するのでしょうか。

これは私が仕事をしている国でもよく見かけるのですが、かなり多くの人が、Facebook上に流れてくる怪しげな情報を信じて意思決定(投票行動を含め)をしています。今後もその傾向が続くと、いよいよアルゴリズムによって操られた大衆による意思決定が、民主主義の結果になるわけです。それがすべての人にとって本当にベストな意思決定になるのか、疑問を呈する人が出てくるでしょう。中国人の友人らによる「一党独裁をしている自分たちの方が高い精度の意思決定ができる」という主張は日に日に説得力を増しています。

もう一つ、これも最近の問題意識の一つなのですが、そもそも自由権や民主主義を絶対に守りたいと思う人はどれくらい居るのでしょう。ビッグブラザーが居たとして、その下での安心・安全かつ便利で快適な生活が提供されるのだとしたら、少なくない人が個人のプライバシーと自由を喜んで差し出すのではないでしょうか。そのような放棄の意思決定が自由意思なのかすらも分からないですし、その結果、やってくる社会がディストピア2)なのかも分かりません。合理主義者、無神論者であるカラマーゾフの兄弟のイワンが大喜びしそうなテーマです。
2)ユートピア(理想郷)の正反対の社会

五常・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役社長慎 泰俊
1981年東京生まれ。 朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年7月に五常・アンド・カンパニー設立。仕事の傍ら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立し、代表理事を務める。著書に「働きながら、社会を変える。~ビジネスパーソン『子どもの貧困』に 挑む」(英治出版)、「ソーシャルファイナンス革命 ~世界を変えるお金の集め方」(技術評論社)など。
1981年東京生まれ。 朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年7月に五常・アンド・カンパニー設立。仕事の傍ら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立し、代表理事を務める。著書に「働きながら、社会を変える。~ビジネスパーソン『子どもの貧困』に 挑む」(英治出版)、「ソーシャルファイナンス革命 ~世界を変えるお金の集め方」(技術評論社)など。
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