【橋本財団事務局通信】携帯電話無料貸与事業から見える若者の現実

――「連絡先がない」
それだけで、社会との接点が途絶えてしまうことがあります。橋本財団では、経済的に困難な方たちに携帯電話を提供することで、人生の再スタートをサポートしています。
▶詳しくはこちら≪https://web-opinions.jp/posts/detail/593

事業がスタートして4年。これまで最も多かったのは50代の利用者でしたが、今年度に入ってからは、貸出対象の半数が10代から20代前半の若者になりました。私が特に気になったのは、「なぜ携帯が使えなくなったの?」という問いに対する彼らの答えでした。


「現金2万円がその場でもらえると聞いて、何度も乗り換えをしていたら、知らない間に支払い料金が膨らんで滞納していた」(10代・Aさん)

「乗り換えで現金2万円プレゼント」――ショッピングモールや家電量販店などで、こうした広告を見かけたことがある方も多いでしょう。Aさんもその言葉に惹かれ、携帯電話の契約を何度も乗り換えました。契約後、手元に現金が入り、生活費や買いたかった日用品に使うことができたのです。実際に何が起こったのか、詳細は本人にも分からない様子でした。生活費をまかなう余裕がない中で支払いが追い付かず、滞納が続いたとみられます。おそらく、料金プランや契約内容を十分に理解できていないまま契約が重なっていった可能性があります。


「乗り換えをしたつもりが上手くいってなくて、2回線分払っていることになっていたので、滞納してしまった」(20代・Bさん)

Bさんは、旧契約が自動的に解約されたと思い込んでいましたが、古い回線もそのまま生きていました。数カ月にわたって請求が続き、気づいたときには未払いが発生。分割していた端末代金も一括で請求されたため、多額の負債を抱えることになりました。「どうして起こったのか?」と尋ねても、彼らは「分からない」と答えるしかありません。契約の仕組みを、最初から理解できていませんでした。

こうしたケースでは、頼れる保護者がいないことも少なくありません。特に、施設を退所した若者や家庭に経済的・精神的な余裕が無い人にとっては、「契約内容を理解する力」そのものを支援することが必要です。同時に、販売者側にも、契約内容を一方的に伝えるのではなく、相手の年齢や状況に応じて「理解できるかどうか」を確認しながら説明する責任があります。若者や困難を抱える人々が、支援者に繋がる前に、多額の未払いを抱えてしまう――そうした事例を未然に防ぐためには、契約現場そのものの在り方も問われます。

これまで橋本財団では、のべ150名の方に携帯電話を貸し出してきました。そのうち約8割の方が、住まいを確保したり、仕事を見つけたり、自分名義で携帯電話を契約するなど、自立への一歩を踏み出しています。もちろん、すべてが順調に進むわけではありません。それでも、「携帯電話がある」ことがどれほど心強く、どれほど支えになるかを、私たちは現場で実感しています。今後も、携帯電話が「ぜいたく品」ではなく「生活に欠かせないもの」として扱われるよう、関係機関への働きかけを続けていきます。

公益財団法人橋本財団事務局通信
イベントのお知らせや日々の事業で感じたことをお伝えします。
イベントのお知らせや日々の事業で感じたことをお伝えします。
  • 社会福祉法人敬友会 理事長、医学博士 橋本 俊明の記事一覧
  • ゲストライターの記事一覧
  • インタビューの記事一覧

Recently Popular最近よく読まれている記事

もっと記事を見る

Writer ライター