今再び、学校教育とそれを支えてきた教師のあり方が揺れ、問われている。
「働き方改革」「教職志願者減少」「部活動の地域移行」…各種メディアでも扱いが増え、まさにこの寄稿も、文科大臣と財務大臣による合意がなされて間もないタイミングであろう。
2021年9月、私はOpinionsにて「現場発!今こそ求められる“教師道”-『社会に開かれた』『持続可能な』教師像とは?」を寄稿させていただいた。当時、新型コロナウイルスの感染拡大により、全国の学校現場は教育活動の制限と新たな工夫の狭間で揺れていた。そして、2020年度に前倒しされた「GIGAスクール構想」、中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの実現~」(2021年1月26日)などは、教師の役割やあり方、「どう教師道を歩むのか」についても問いを突きつけた。私は「ユースワーカー的教師」(自主提案2016)を想起、あらためてESD(持続可能な発展のための教育)の視点から発信したのであった。
「…いわゆるクラス経営や授業・教科研究などの教職領域のみならず、社会のグローバルとローカルな課題に積極的に関わりながら、多様な他者や組織などと連携・協働できる力」
「…適切なタイミングで主体的に高められると、より豊かで有意義な教師人生を送れる」
「…『社会に開かれた』『持続可能な』教師像を具現化し極めようとする、教師の働き方や生き方、すなわち「教師道」が拓かれていくことを切に願う」
-あれから、3年が経過したが、「教師道」は拓かれているだろうか?-
私自身は、中学校教師歴が四半世紀近くとなり、国際・多文化共生、青少年育成等のNPO・社会活動に取り組んで10年以上が経つ。現在、「教師教育」「教師エージェンシー」「教育政策」等をテーマに社会人大学院生として研究に着手し、主宰する教師道場「師魂塾」での情報・意見交換、学びを大切にしている。こうした中、志ある熱い教師たちと出会い、教師の育成とそれを支援・連帯する手立て・仕組みづくりへの思いが強くなっている。「働き方改革」「部活動の地域スポーツ移行」「校務DX」などに対して、現場や業界では賛否両論あるが(※)、敢えて「今をチャンスに」捉え、「ユースワーカー的教師2.0」を提案したいと思う。
※「働き方」や「部活動のあり方」は、本来お上に言われてではなく、各現場で自らシステム思考を働かせ、気づき・考え・行動できていれば、今ほどの混乱にはなっていなかったであろう。
今後、少なくとも現状より、教師は新たな「時間のすき間」「時間感覚」を生み出せるのではないだろうか。教師が担当教科に関すること、自身が関心のある青少年活動や社会貢献活動にトライしてみる絶好の機会としたい。また、これからの少子高齢化・人口減少を見据えると、仕事一辺倒ではなく、自分自身がよさ・強みを生かし、楽しく充実感をもてる社会活動を並行していくことが望ましいと考える(他の職種も然り)。地域や社会と繋がる大人のロールモデルとして、「身近な大人」として、教師の生き様が問われている。
子どもたちにとって、平日、毎日約8時間一緒に過ごす教師の影響は依然として大きい。現場の多忙化、新自由主義・個人主義、浅く・遠いコミュニケーションの広まりを鑑みると、まさに「教師像」や「教師道」のようなものが希薄になっていると思わざるを得ない。今こそ、あらためて「ユースワーカー」や「社会教育」の視点を取り入れた教師像を求めるべきである。
「ユースワーカー」とは、「家庭・学校・職場以外の場所で、若者の成長を支援する取り組み(ユースワーク)を専門的に担う人」「子ども・若者(青少年)の成長を支援する専門職」「子ども・若者の悩みに寄り添い、成長に携わるプロ」などと定義、描写されている。「ユースワーカー」には、子ども・若者の自己決定や自主性を最大限尊重し、成果よりもプロセスを重視することが期待される。
一方、「学校の先生」(教師)は学校教育(フォーマル教育)において、カリキュラムに沿った目標を設定、その達成を通して、児童・生徒の自己実現を支援する役割が強い。「児童・生徒の自己実現」と言うのも、その地域や学校の特徴や現状を踏まえ、各学校園が定義した「目指す生徒像」や「学校教育目標」の達成を目指すことが重視される。
先般、日本教師教育学会第34回研究大会のシンポジウムで、岩田康久氏(東京学芸大教授)は、今の日本における「教師像の〈幼さ〉」「教師アイデンティティの揺らぎ」を指摘された上で、「『丸ごと子どもにかかわること』(門脇2011)の喪失」という危機に言及された。前者であれ、後者であれ、教師が「人間発達援助専門職」(久保2023)であることを忘れてはならない。
ここに、下記のキーワードに合致する「ユースワーカー的教師」が一人でも増えることを期待したい。
【キーワード】
・教育を巡る現代的諸課題への関心と認識をもつ教師
・社会教育士(※)やユースワーカーとしての知見を有する教師
・多様な教育現場で実践経験を積んでいる教師
・学校外で青少年育成活動(ユースワーク)に参画している教師
(※)社会教育士
「地域課題の解決など住民の学びを多様な主体と連携しながら支援する専門人材」(文科省)は「学びのオーガナイザー」として、次の3つの力が求められるとしている。
・人と人、組織と組織をつなぐコーディネート力
・人々の納得を引き出すプレゼンテーション力
・人々の力を引き出し、主体的な参画を促すファシリテーション力
このような「ユースワーカー的教師2.0」を各地域や学校で一人でも多く育てることで、「木も見るし、森も見られる」(=子どもも社会もともに大切にできる)風土が醸成されるだろう。こうした教師像を目指し実現する(「率先者、実践者」たる)ことと、そのよさを理解し応援できること(仲間・仕組みづくり)を広げなければならない。
ちなみに、ドイツで教育討論をした際、ドイツ団から「学校教師とユースワーカーを区別」する見識が示されたが、前述の通り、日本の学校は子どもと教師が共に過ごす時間が長く機会も多く、子どもたちへの有形無形の影響力が大きい特徴がある。
「ユースワーカー的教師2.0」は社会と繋がることで多様な社会資源、ネットワークを得て、それを自校の豊かな教育活動、子どもの心を揺さぶる教育実践などに生かせるはずだ。既存の価値観で「先生」「教師」を捉えることから脱し、新進気鋭で有能な人材がもっと集まってくる教育界にしなければならない。教師一人一人にも、学校組織にも学校教育にも、そして社会にも好影響をもたらすであろう「ユースワーカー的教師2.0」が増えることを期待して、本稿に終止符を打つ。
※参考
・久保富三夫 (P47-P64『令和の日本型』教育と教師」日本教師教育学会2023)
・第9回ESDカフェ「『ユースワーカー的教師』の可能性~苦しいときは俺の背中を見なさい!」掲載記事(岡山市ESD推進協議会「おかやまSDGs・ESDなび」2017.2月)
https://www.city.okayama.jp/sdgs-esd/0000038444.html
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