出生率が1.20になった日本において、人口減少は最も大きな課題となっている。一般的に、人口減少に直面して、まず政府が行おうとするのは、出生率の向上である。西欧諸国は女性の地位がいち早く向上して、世界に先駆け出生率が低下した。各国は出生率を引き上げようと努力し、子育て世代に対し、経済的な負担を軽減するような各種の対策を実施するとともに、保育所の入居基準を緩和し、保育所の定員を増やし、育児休業制度を拡充することによって、男性の育児への参加を促すなどの対策を行っている。結果は以下の通りである。
(図1)各国の合計特殊出生率
金子隆一・明治大学特任教授作成
(資料:Human Fertility Database, Eurostat,Insee)
西欧の多くの国で、少子化対策によって、一時的に出生率は向上したが、いずれも近年再び低下傾向にある(図1)。つまり、少子化対策は一時的には効果があるが、本質的な対策とはなり得ないようだ。日本はこれらの国の中でも、出生率の低下が最も大きい。
一方で、将来2100年までの国単位の人口の推計は、人口減少が日本で最も顕著であり、他の国はそれほどでもない(図2)。これらは、日本に比べ、出生率の減少が少ないためもあるが、多くは移民の増加によるものだ。
(図2)各国の人口推移
不思議な現象は、日本での人口減少に対して、出生率の上昇でそれを補うことは出来ないと多くの識者が述べているにも関わらず、移民についての言及が極めて少ないことである。あたかも出生率の向上以外には、人口減少に対する策が無いかのごときである。日本は2070年、今から50年後には、出生率と現在の移民の状況から見ると、8700万人程度の人口が予想されている(国立社会保障・人口問題研究所)が、その内訳は、7600万人の日本人と、1100万人の外国人労働者によるものである。将来予測には移民の人口が組み込まれているのだ。
もはや移民の導入は不可欠であることが分かるだろう。しかし、問題は移民を入れるかどうかでなく、どのように移民を入れるか、あるいはどの程度の数の移民が適当か、に移っている。移民に対する民族感情は、人類本来の感情を、近代の人権を重視した個人主義的倫理観が克服したところで成立する(WEIRDと非WEIRD文化※1)。19世紀から20世紀の移民に対する非人道的な問題の繰り返しを避けなければならない。しかし、現在ヨーロッパで起こっている政治の右傾化の多くも、移民問題が根底にある。しかし、ヨーロッパよりも、さらに移民が必須である人口減少に直面している日本では、現在ヨーロッパで起こっている、深刻な移民問題を解決しつつ、移民を含む社会構造を保つための工夫が必要になる。
移民問題は日本の将来を左右することと認識し、まず移民を認め(日本政府は未だに移民を認めない)、取り扱う強力な部署を設置する必要がある。例えば、移民庁あるいは移民省などである。現在は年間約30万人の外国人が、新たに労働者として日本に来ているが、この数が適当かどうかの問題がある。国立社会保障・人口問題研究所の試算では、年間14万人の移民数でも、2070年には外国人の数は1100万人となり、人口比は現在の西欧諸国並みの14%に達する。年間30万人では、外国人比率は更に増加し、50年後の2070年には、外国人数1800万人、外国人比率19%に達する。
(図3)日本の外国人比率
人口統計より筆者作成
現在のような、移民政策が存在しないことを前提とした、「無秩序」な移民政策によって、この様な状態が推移すれば、同調圧力が強い日本では、容易にヨーロッパの現状と同じ様な、移民排斥の動きが高まる可能性がある。このような動きは、人間社会が持つ必然的な性質だ。将来の混乱を防ぐ為には、移民の数を調整するとともに、移民をいかに日本住民として認めるのかを含む、移民「統合政策」を作ることによって、移民の日本への導入が混乱なく、多くの理解を得て進むことを期待する。移民についての一般の幅広い議論が必要だ。
※1:WEIRDと非WEIRD 本来は、「奇妙な」という意味。『「現代人」の奇妙な心理』において、ジョセフ・ヘンリックの唱える考え方。Western(西洋), Educated(教育のある), Industrialized(産業化された), Rich(裕福な), Democratic(民主的な)の頭文字をとった人々のことを指している
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