慎泰俊と申します。認定NPO法人Living in Peaceの理事長として、社会的養護下にある子どもたちの支援をしてきました。
社会的養護とは、親と暮らしていた元の家庭で暮らすことができない子どもたちに対して、社会が代替的に提供する養育環境のことです。日本では現在、社会的養護下にいる子どもの数が5万人に達しようとしています。その多くが今は児童養護施設等の施設で暮らしています。
子どもたちが社会的養護に入る理由はこの30年で様変わりしています。1978年においては、子どもが親と離れて暮らす理由のトップは親の離婚・不和・死亡・行方不明などでした。児童養護施設が一昔前まで孤児院と呼ばれていた理由もここにあります。
しかし、2008年にはそれらが理由の5位・6位になり、一方で元々少数派だった親の虐待・就労・経済的理由(要は親の貧困)が今や1位・2位になっています。
本稿では、社会的養護の背景にある、貧困と児童虐待についてまとめたいと思います。
まず、日本の貧困についてです。私たちの実質所得は、1990年代末にピークを迎え、その後は下落が続き、30年前の水準に戻っています。一方で、相対的貧困率は着実に伸び続けて、現在一人あたりの等価可処分所得(家計所得を家計人数の平方根で割ったもの)が110万円以下の貧困家庭は16%となっています。特に貧困率が深刻なのは母子家庭で、その3分の2の世帯収入は300万円以下となっています。
世界中の多くの国において、貧困は相対的貧困で評価されます。それはなぜかと言うと、社会的な動物である人間は「普通の人の暮らし向き」を自分ができない場合には不幸せを感じるからです。また、相対的貧困は、その計測方法のゆえに、格差の指標であるということができます。
技術革新が生じると格差は広がります。それは、技術が人間の労働を代替するのは比較的短期間で起きるのに対して、機械に代替された人々を雇用する産業は、すぐには成長しないからです。イギリスで産業革命が本格化したのは1830〜1840年代だと言われていますが、1823年に0.40だったイングランドのジニ係数(格差の指標、0が完全平等で1が完全不平等)は1871年には0.63にまで上昇したそうです。私たちが暮らしている現在においては、機械が人間の知的労働を代替し始めており、これから数十年かけて格差が拡がっていくことが予想されています。
こういった状況において格差を抑制できるかどうかは、ひとえに国家戦略にかかっています。具体的には、国の成長と富の分配をいかに政府が達成し続けられるかが、格差抑制ができるかどうかの鍵となるわけです。
しかし、この20年間において 購買力平価ベースの一人あたりGDPは伸び悩み続けています。
また、配分も十分ではありません。日本が「一億総中流の国」であるというのは今や完全なる幻想であって、その貧困率は世界的にも高くなっています。貧困家庭にある子どもの比率、すなわち子どもの貧困率は、OECD各国の中では下から数えた方が早い水準になっています。特に、ひとり親家庭の子どもの貧困率は、OECD加盟国のワースト1位です。その大きな理由として、シングルマザーが働き口を得ることが難しいことなどにあります。
物質的貧困は、家庭にも着実にストレスを与えます。もちろん、物質的に恵まれている家庭でも児童虐待は起きますが、実態として児童虐待で通報される家庭の多くが、経済的に問題を抱えていることが多いのはよく知られた事実です。
この様な状態での、児童虐待の実態を次回お示ししたいと思います。
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