前回の記事で、カール・へラップ教授が著した、「アルツハイマー病研究、失敗の構造」を紹介した。教授は、アミロイドβ抗体である、レカネマブの使用承認に異議を唱えている。この要点は、はたして、この薬の根拠となっている「アミロイドカスケード仮説」が事実なのかどうかについての疑問である。
教授の疑問は納得できるが、それ以前に、はたしてアルツハイマー病の診断は正確に行われているのかどうか、そしてアルツハイマー病の定義は現在の状態で良いのかを問わなければならない。
アルツハイマー病と言われる疾患は50代、60代から発症する家族性孤立性アルツハイマー病と、高齢期に発症するアルツハイマー病とに分類される。いずれも脳内にアミロイドβの沈着が多く、脳細胞の減少も著明である。アミロイドカスケード仮説では、脳細胞の減少はアミロイドβの脳内への沈着によると結論づけている。しかし、全体の5%-10%である家族性孤立性アルツハイマー病と、老年期に発生するアルツハイマー病とはその進行も、病態も大きく異なる。家族性孤立性アルツハイマー病は進行も早く、症状も厄介である。カール・へラップ教授も、この様な家族性孤立性アルツハイマー病と、疾患の大部分を占める老年期のアルツハイマー病とが同じ疾患であることに疑問を呈している。即ち、家族性孤立性アルツハイマー病は、アミロイドカスケード仮説が適応されるかもしれないが、老年期のアルツハイマー病ではアミロイドカスケード仮説は原因とはならないのではないか。その上、老年期には、いわゆる廃用性障害が他の疾患でも頻発することと同じように、脳の機能においても廃用性の認知障害(病理的、解剖学的には変化がなくても、使用しないことによって、機能の低下をきたすこと)が考えられる。多くの老人性アルツハイマー病は、老化に伴い、ほとんどの人に起こる記憶能力の低下を基礎にした、社会からの孤立、身体的能力の低下、経済的不安などが、認知症症状を引き起こしている可能性が高いのである。結果的には、優性遺伝によって起こる家族性孤立性アルツハイマー病を除くと、認知症の大部分で、75歳以上の人に起こるものは、単独の疾患としては断定できない可能性がある。
従って、アルツハイマー病に対する取り組みは、「早期発見、早期治療」ではなく、それが廃用性障害であり、早期発見しても治療方法がない疾患の存在を前提として、症状が起こった場合に、周囲の環境、つまり、家族、近隣住民、行政単位などで、アルツハイマー病の人をどの様に支えていくのかが最も重要な問題となるだろう。そうしなければ、アルツハイマー病は、今までのスティグマが「疾患」に変わったのち、新たに拡大されたスティグマとして広まる可能性もある。
この場合、高齢においての「正常」とは何かが問題だ。そうすると、アルツハイマー病の研究者は解決不可能な問題に直面する。正常な老化の経過中、認知症が始まる時期を特定する必要があるからである。老化による認知症の発症は、歩行、食事量、感染しやすさ、視力聴力の低下などと同じように、老化としての記憶力低下を位置づけるとすれば、日常生活の状態と密接に関係する。
一方で早発性あるいは優性遺伝する家族性孤立性アルツハイマー病は、アミロイド班と神経原線維変化の病理に適合するようだ。この様な研究結果などから考えた場合、優性遺伝によって起こる家族性孤立性アルツハイマー病を除くと、認知症の大部分を占めるアルツハイマー病の中で、75歳以上の人に起こるものは、単独の疾患としては断定できない可能性があり、それは、一般的な老化の一形態かも知れないのだ。多額の費用を要する(年間数百万円)治療を行うかどうかは、アルツハイマー病の分類と密接な関係を持たなければならない。
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