ケアプラン自動化への道

介護のアセスメントが現状では不十分であることはすでに述べているが、適切なアセスメントが行われたとしても、アセスメントに従ったケアが行われるかどうかが問題である。現状でのアセスメントを行う上でのさらなる問題は、アセスメントが、ケアを行う場所に制約されたものであることだ。つまり、このようなケアを行うから、このようなアセスメントが求められるような、いわば行動と評価の逆転現象が起こっている。例えば、老人ホームでほとんどの人が車いす移動である場合、少しの障害であっても、車いすの移動を強制されることになる。その場合、「移動困難」とのアセスメントがつけられる(アセスメントを無視したケアの場合はその限りではないが)。また、食事を1日2回で済ませている人に対して(例えば10時と夕方5時)、必要であっても1日2回の食事摂取が適切であるとのアセスメントはなされず、朝昼夜と3回の食事を強制することに基づいたアセスメントがなされる(その結果食欲不振との評価になることもある)。排泄(貯留)能力があり、手足の障害のために自力での排泄ができない人に対して、老人ホームで一斉に排泄介助(おむつ交換)を行っている場合、その理由が明確にされないままに、自立排泄が出来ないとのアセスメントがなされ、その結果、簡単におむつを付けてしまうことなどだ。これらは、老人ホーム特有の「効率性」を重視した考えや、昔からの「習慣」に基づき、個人ごとのアセスメントを元にした個別のケアとの観点には立っていない。

日本の老人ホームは歴史的に収容施設の色彩を持ち、居住場所ではなかった。従って、老人ホームではまず施設の規則ややり方が優先され、個人ごとのアセスメントに基づくケアプランは立てても仕方がないと思われている。これらの慣習は、日本独特のものでなく、殆どの国で「50年前まで」行われていたものだ。高齢者個人の権利(人権)が強く意識されるに従って、多くの国で少しずつ変わっていったことが日本では変化せず、継続しただけのことである。この場合、施設の運営基準こそが大切であり、その基準にあった範囲でしか、個人の自由はないのである。

介護の本質は、自宅であろうと老人ホームであろうと、能力の判定(アセスメント)は同じようになされる必要がある。従って、アセスメントの自動化は問題ないはずだ。そして、アセスメントの自動化は、医療診断の自動化と同じように、現在のIT技術で十分に可能となる。そして、アセスメントの結果として作られるケアプランと、現状のケアとの食い違いが意識されなければならない。例えば、排泄の障害がある人に対して、その原因がどこにあるのか自動化アセスメントで知ることが出来れば(尿の排泄や貯留機能の障害か手足や認知機能の障害かの判別)、その対策としてケアの方法がいくつか提示され、その内容を障害者とケア担当者で吟味することが出来るはずだ。結果的に多くの老人ホームで行われている一斉のおむつ交換はなくなるはずだ。

自動化されたアセスメントに対して、ケアプランを作るときに、最も影響を与えるのは、居住場所である。居住場所が「障害者自身の選択」でなく、「障害の程度に応じた居住場所の選択」になってはいけない。まず、どこに住みたいのかが決まった後に、どのような介護を行うかが決定されるべきである。そうすると、居住場所に従って、ケアの方法が決まり、ケアプランが決定される。このような自動的に提示されるケアプランに沿って、障害者が自分の住まいを決めるべきである。つまり、自宅であれば、一人暮らし、あるいは誰かと同居によってケアプランが異なるし、同居人との関係にも左右されるだろう。在宅の場合は、障害者はより強い自立心が必要であり、その反映として自由も与えられるだろう。しかし、自立心が持てない人に対しては、拘束の多い老人ホームも選択肢となるかもしれない。この場合、あらかじめ老人ホームでの不自由さを説明することも必要だ。アセスメントが同じであっても、このような居住場所に応じてのケアプランの提示は、ケアプランの自動化によって、容易に作ることができるようになる。自分が居住場所を決める場合、実際の生活がどのようになるかを、具体的に知ることが出来るようになるのだ。

ただし、当然のことながら、自動的に作成されたケアプランをもとにして、障害者あるいはその介護者の意向を反映したケアプランの改正を行うことは必要だ。問題はその出発点をどこにするかなのである。従来からの自宅での慣習、訪問サービスの表面的な限界、さらには、老人ホームでの慣習的に行われている介護方法などを元にするのか、あるいは、障害者の正確なアセスメントに基づくケアプランを始まりとするのかの問題である。

このようにケアアセスメントの自動化とケアプランの自動化を始めることによって、今までの慣習的なケアの修正ができるようになり、さらには、ケアの細分化、つまり個人にあった、個人の欲求に基づくケアができる可能性が広がる。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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