介護アセスメント、ケアプランの自動化について

医療、看護、介護の分野は、アセスメント(つまり評価、診断)に基づく、治療、看護、介護が必要であり、それが基本になる。近代医学はそれ以前の医療と比べ、解剖学、生理学などをもとにした「診断」に最も重点を置いている。この傾向はともすれば、生物学以外の所見や治療を軽視することにつながると批判を受けてはいるが、医療にとって「診断」が最も重要なことである事実は変わらない。コンピュータの発達に伴って、医療分野にも「自動診断」の波は広まっている。医師は、膨大な症状に対して、膨大な疾患名をすべて記憶し、正確な診断に至ることが理想であるが、時として診断ミスを犯すことは避けられない。その点コンピュータによる自動診断は、人間が犯す記憶の間違いや勘違いによるミスを予防する。諸外国では医療分野での自動診断は、問診や血液診断、心電図などの分野で、すでに診療に取り入れられ、さらに人間によるしかないと思われていた、画像診断分野(この場合はAIを使用する)にまで及んでいる。しかし、コンピュータによる自動診断は、あくまで診断過程の手助けとなるものであり、医師による診断が不要になるものではない。むしろ、将来的には医師の最も重要な仕事は、診断や治療を決定することよりも、患者に寄り添い、疾患の説明を行い、患者が治療を行う方針を患者と共に考えることになるだろう。物理的な診断は、副次的作業となるかもしれない。

このような状況を考えると、これから介護を受ける障害を持つ人たちに対して、現状の状態を把握すること(アセスメント)は、医療においての診断と同じような位置づけがなされる。医療と異なるのは、単に身体的な状態を診断するのみでなく、精神・心理的な問題、社会的な問題を合わせてアセスメント(評価、診断)する必要があることだ。これはICT(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類)※の考えに沿ったものである。いかに色々の世話を、愛情を込めて、かつ、熱心に行おうとしても、入り口のアセスメント(評価、診断)が間違っている、あるいは不十分だと、その後の介護が正確性を欠くことになる。例えば、スプーン、フォークや箸を使って食事を摂ることが出来る人に対して、介護者が障害者の能力を無視して食事介助を行うと、献身的な介護を行っているように見えても、障害者の能力が向上する余地をなくして、さらに依存性を増し、かつ誤嚥の危険も大きくなる。それ以上に障害者の自由が損なわれる。また、歩行補助具を使って移動ができる人に対して、簡単に車いすを日常的に使うことも、かえって歩行能力の低下をきたし、同様の問題を生じる。

このように介護分野においても最初及び経過中のアセスメント(評価、診断)は重要である。しかるに現状はどうか? 介護保険でのアセスメント(評価、診断)に基づくケアプランの作成は、2000年以降行われているが、アセスメントは満足できるものとは言えない。正確な評価、診断を行うというより、現在の介護の状態を前提として作られ、それに沿ったケアプランをもとにした介護が行われている。アセスメントの身体評価、精神・心理的評価、社会的評価の中でも、身体的状態への評価、診断は最も基本的なものであり、比重も大きい。例えば、脳卒中で、右麻痺を来している人が在宅あるいは老人ホームで生活する場合、麻痺の回復可能性、筋力の程度、歩行の近い将来の可能性、右手の動作の回復程度など、発症からの期間に応じた回復過程を念頭に置いたアセスメントが必要となるだろう。もちろん医療機関での回復程度あるいは将来の回復可能性についての診断を参考にする必要はあるが、医療機関と環境の異なる在宅や老人ホームの場合、もう一度アセスメントを行う必要がある。このようなアセスメントについては、身体的、精神・心理的部分について医療や心理の専門家が作成する必要がある。そして、このようなアセスメントは、予め決定されているものではない。アセスメントに従ってケアを行った結果が、さらに正確なアセスメントを決めるのだ。この過程はP⇒D⇒C⇒Aの過程と同じようなものである。

介護アセスメントは、医療においての診断過程と同じように、あるいは看護診断過程と同じように、演繹的にアルゴリズムに従って行われるべきである。現状の状態を集約して良い解を求めるような帰納的方法ではない。

冒頭のアセスメントの自動化は、介護分野において、現状で必ずしも専門家が行わず、不十分なありきたりのアセスメントしか行われていない状態を改善し、あらゆる状態に対する「標準的」アセスメントが容易に出来上がることを想定している。もちろんこのような自動化には、ICFの考えに基づき行われなければならないし、情報から自動的に出来上がったアセスメントに対して、障害者の希望や、介護者の要望を付け加える必要があることは当然である。アセスメントの自動化は、少なくても現在行われているアセスメントよりも前進することは確かである。そして、頻回に自動化された再アセスメントを行うことが出来れば、現状の介護よりも前進することが出来るのだ。

※ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類);「“生きることの全体像”を示す“共通言語”」である。生きることの全体像を示す「生活機能モデル」を共通の考え方として、さまざまな専門分野や異なった立場の人々の間の共通理解に役立つことを目指している。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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