先日、ケンブリッジでがんのゲノム医療のセミナーが開かれました。欧米の先端の研究者が集まり、大変エキサイティングな会でした。多くの研究者はがんを克服しようと、ゲノム医療への熱意を持って日夜研鑽しています。今回の研究会でも多くの解決すべき問題が論議されました。
「がんは遺伝子の変異でおこる、だからその遺伝子の働きを矯正すれば、がんは治癒する」というナイーブな仮説に対する対論をまとめてみますと、以下のようになるかと思います。
1) がんの遺伝子の変異は一つではない。
2) がんの遺伝子の変異が、がんの原因とは限らない。
3) がんは増殖するに従って、次々と新しい遺伝子変異をきたす。
4) がんは治療するに従って、次々と新しい遺伝子変異をきたす。
5) がんの遺伝子の変異は、同じ「がん」でも人によって遺伝子的には全く異なる。
6) がんの遺伝子の変異は、同じ「がん」の中でも場所によって遺伝子的に不均一である。
7) 遺伝子変異はなくても、タンパク発現が異なることが、がんの原因であることがある。
8) 遺伝子変異はなくても、シグナル伝達が変化していることが、がんの原因になることがある。
9) がんの原因遺伝子と、その変異に対する効果的な薬剤が、全て存在するわけではない。
10) がんの遺伝子に対する薬剤が、全て効果的であるとは限らない。
がんの治療は、つくづく難しいと思います。
しかしながら、考えてみれば私たちの体も、精子と卵子から変化を遂げて、このような体になっているのです。
『ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。』(吉田兼好)
私たちの体内では絶えず細胞が更新を続けているのです。
『生物を構成する分子は日々入れ替わっている。すべての生物は分子の「流れ」の中の「淀み」なのである。』
(福岡伸一/生物学者,青山学院大学教授)
生命とは何と摩訶不思議なものでありましょうか。
がんは人の顔が違うように、同じ肺がんでも、同じ腺がんでもその遺伝子の変異はまったく異なります。その上に、同じ人の同じ腺がんをとってきても、場所によってその遺伝子の変異はまったく異なっています。同じ腺がんが転移した場所では遺伝子の変異が異なっています。さらに、時間が経てばかつて大部分を占めていた遺伝子の変異が少数になり、少数であった遺伝子の変異が大多数を占めるようになります。
困ったことに、がんの治療を行うことにより、新しい遺伝子の変異が起こります。これらのことは遺伝子の異常を調べて、その異常に対する治療を行うというゲノム医療戦略を根本から脅かします。
がんの遺伝子はいつ検査すれば良いのでしょうか。遺伝子は刻々と変化しており、治療によっても変化するのならば、いつ検査するのが良いのかを知らねばなりません。人によって、あるいはがんの種類によってもその時期は異なってくるでしょう。
また、がんのどの部分を調べたら良いのかも問題になります。転移があり治療戦略を立てようとする場合、がんの原発部位を検査しても意味はないかも知れません。
また原発のがんの遺伝子検査でさえ、どの部分を調べるかによって検査結果は異なってくるでしょう。検査結果で遺伝子の異常があったとしても、それががんの進展に、本当に意味があるのかどうかも明らかではありません。
遺伝子の異常がないのに、異常な増殖を起こすことがあります。エピジェネティクスと呼ばれる事象がありますが、この場合には遺伝子の異常を調べるだけでは、がんの原因は明らかになりません。
ゲノム医療による薬剤の開発は急速に発展しています。原因となる遺伝子異常を見つけて、それを補正する薬をコンピューターで設計するという手法が一般的になっています。白血病などでは、それによって開発された薬が効果を発揮していることも知られています。
薬の開発のスピードは以前に比べ加速しています。これもゲノム医療のおかげだと言えます。
ゲノム医療の発展は、従来では考えられなかったような治療ができる可能性を秘めています。一方でゲノム医療における国民全体のコストの増大、患者さん/家族のコスト、患者さん/家族の心理的負担の増大、医療提供者の体制の問題など、まだまだ解決すべき問題が山積しています。我々もその発展を注視しながら見守っていく必要があります。
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