皆さんは障害者自立生活センター・Center for Independent Living(CIL)をご存知でしょうか?障害者の自立には欠かせない団体で、CILまたは日本では全国自立生活センター協議会 “Japan Council on Independent Living Centers”略してJILと表記されます。ここに加盟する事業所が少なくても各県に一ケ所、大都市では何ケ所もあり日本の障害者自立をけん引してきました。
2018年に公開された『こんな夜更けにバナナかよ』という映画に障害者自立生活センターの事がちらっと出てきますが、半世紀前から日本でも存在した団体なのに私も10年前までは知らなかったし、障害当事者やその家族の間でも知る人は少ないですね。
CILは、障害は個性であり、変わるべきは社会であると主張しました。その成り立ちや思想について紹介します。
CILが生まれた1970年代初頭の時代背景を書くと、アメリカではキング牧師の黒人公民権運動やベトナム戦争の反戦運動が広まってきたころで、人種、国籍、宗教、男女、障害の有無、年齢などの様々な差別があった時代から徐々に差別解消へと社会が変わりゆく潮目でした。日本では障害者に関しては以前紹介した青い芝の会の運動があったころで、障害者がいる事は家族の恥とされ座敷牢という言葉も存在し、車椅子では簡単に社会に出られない時代でした。
障害者は人生全てを医者や学者等専門家の管理下におかれ、本人の意志や自己決定権は無視されてきました。何の選択肢もないまま一生、親の庇護の下か病院や施設に収容されていました。しかし、1972年カリフォルニア州バークレーに障害者自身(呼吸器付車椅子に乗ったポリオのエド・ロバーツ)が運営し、障害者にサービスを提供する自立生活センターが設立されました。自立生活センターが提供するサービスを利用することにより、重度の障害があっても地域で自立して生活することが可能となったのです。
彼らが掲げた思想は次の4つです。
①障害者は「施設収容」ではなく「地域」で生活すべきである。
②障害者は、保護される子供でも、崇拝されるべき神でもない。
③障害者は、援助を管理すべき立場にある(消費者コントロール)。
④障害者は、「障害」そのものよりも社会の偏見の犠牲者になっている。
つまり、障害は個性であり、変わるべきものは、車椅子を配慮しない駅の階段や障害者を受け入れない学校や企業であり、人の心である。障害は社会が作り出したものであるとの発想の転換をしたのです。
彼らの主張は、「重度の障害があるといえども、自分の人生を自立して生きる」事で、介護の便宜のために施設に収容されて、あてがいぶちでの毎日の生活を拒否する事でした。
この理念に基づいてできた法律が「障害を持つアメリカ人法」で、今から30年前の1990年7月に成立しました。これは障害者権利条約に似た法律で、先進国の中では障害者権利条約を今でも批准していないのはアメリカだけですが、1970年代に障害者自立生活(IL)運動が盛んで土台があったアメリカは、障害者権利条約が要らない社会がすでに出来上がっていたのです。
一方、日本は障害者の人権や権利に関する法律が乏しかったため、障害者は障害者だけの社会で生きられるだけでも幸せだという考え方が根強くあります。共に社会の一員として生きるという考え方が浸透しておらず、2013年の障害者権利条約の批准で暮らしの中の変化を実感している障害者は少ないです。
でも徐々に変化はあり、私のような重度障害者が在宅で生活する事は昔は考えらえれませんでしたが、重度訪問介護制度が出来たことで重度障害者でも在宅で社会の中で活躍することが可能になってきました。ただ、単価が安い重度訪問介護などは利益が少ないため、行う事業所がJILの事業所ぐらいしか無く、障害者の自立には欠かせないのに重度訪問介護を行う事業所が不足しているのが現状です。
アメリカに半世紀遅れて日本でもCILの考え方が広まって、障害は自ら克服するしかなかった時代から、社会の技術や仕組み・制度でカバーしていく時代へと徐々にではありますが変わってきている気がします。障害者権利条約の理念がもっと社会に浸透して、人々の意識が変わることを期待しています。
次回は自立生活センターのシステムについて紹介したいと思います。
(参考)
JILに加盟する団体一覧
http://www.j-il.jp/kameiichiran
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