いま中学校や高校の部活動の一部を地域主体(地域のスポーツや文化の団体、企業等)に移していこうという動きが文科省で検討されています。前回の記事では、地域移行により期待される効果、良さについて述べました。
とはいえ、こうした改革案には、問題、懸念される課題もたくさんあります。次の図に整理しました。
部活動の地域移行の課題、想定される問題(例)
出所)筆者作成
一番、心配なのは、「子どもたちのためにならない」結果を招くことです。
どういうことでしょうか。具体的には、第一に、過重負担です。教員の負担も問題ですが、子どもたちの負担も深刻です。
たとえば、すでに一部を地域移行しているある地域では、平日の18時以降は保護者主体で学校の体育館を借りて活動を続けていますが、21時頃まで熱血指導が続いているそうです。仮に文科省の案のように、休日だけ地域に切り離せたとしても、子どもにとって「休日」にならないようでは、どうかと思います。平日も土日も、子どもの自由時間や勉強時間なども大切です。
「子どもたちのことを大切にするなんて当たり前じゃないか」、そう思われる読者も多いと思います。もちろん、部活動指導に携わっている多くの指導者や関係者(保護者等)がそう思っていることでしょう。
ところが、スポーツや音楽などは、大会・コンクール等を通じて、熾烈な競争の世界です。勝利至上主義に走っている部活動ばかりというわけではありませんが、ライバルたちよりももっと練習しないと上にいけないと感じ、子どもたちの負担を過小評価したり、無視したりすることが起きている部活動もあります。
スポーツ庁で部活動のガイドラインをつくる審議の過程で重視されたのは、過度な運動は、生徒の怪我やバーンアウトにつながるリスクが高まるということです。教員が顧問をする場合であっても、地域主体であっても、子どもたちを潰す活動であってはなりません。
第二に、暴力、体罰、暴言などが一部の活動で横行している実態もあります。これは教員が顧問をする場合でも起こっている問題ですが、地域主体であっても、起こっています。しかも、地域移行すると、学校の管理下ではなくなりますから、余計見えづらくなる危険性があります。校長や教育委員会は自分たちの責任外ですから、それほど神経を尖らせないかもしれません。
2019年には全国大会に出場した大分県日出町の小学生女子バレーボールチームで、監督による暴力事件がありました。
報道によると、監督は女児を「声が小さい」と叱責し、グラウンドを10周走るよう命じた後、平手で頭をたたいたそうです。監督の暴力を知る保護者も多かった、という保護者の証言もありますが、バレーボールの強豪校でのこと、見て見ぬふりをして暴力を容認する保護者も多かったということです(毎日新聞2020年3月29日)。
一事をもって多くがそうであると判断するのは慎むべきですが、本件も含めて、小学校のスポーツ活動は地域主体(保護者会を含む)で展開している例はたくさんあります。それはある意味で、中高の部活動の今後にとってお手本、モデルにもなるわけですが、一方で、暴力や暴言なども少なくないことが保護者等の声からたびたび出てきます。たとえば、大阪府松原市では少年野球チームの男性監督が選手に暴力をふるった様子がYouTubeに投稿されました(2018年)。
第三に、地域移行すると、保護者の経済的な負担や活動場所への送り迎えなどの負担が高まることも想定されます。そうした負担がカバーできる家庭の子は良いですが、そうではないところでは、参加できない子も出てくるかもしれません。
習い事などでは、レッスン料、月謝はかかりますね。それと同じです。教員が部活動顧問をしている場合は、休日の部活動手当は出ていますが、月謝はかかりません。地域移行で期待される効果では、生徒の選択肢が増えるといった点を指摘しましたが、これとは裏腹に、一部の生徒を排除するような方向に動いてしまうのは、問題だと思います。
ほかにもたくさんの問題、課題がありますが、説明は省きます(前掲の図を参照してください)。仮に休日だけでも地域移行するとしても、こうした問題を想定して、問題を防ぐ対策と、万一起きたときに早期に発見、対処できる仕組みを講じておく必要があります。
「改革」などと呼ばれるどのようなことにも、たいてい、良い点と問題点の両方があります。よく効く薬には副作用がある場合も多いことと似ています。そして、国による検討や支援は大事ですが、個々の部活動の具体的な活動は、各地域でしっかり見守り、想定される効果と問題を考えていかないといけません。今回の記事がその際に少しでも参考になれば、幸いです。
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