部活動の地域移行の影響は?期待されることと課題(前編)

読者のみなさんが中学生や高校生だった頃の思い出と言えば、部活動のことをあげる方は多いのではないでしょうか?それは今の子どもたちの多くも同じです。

その部活動が、いま岐路に立っています。休日も練習や大会の引率などに関わる顧問の先生たちの負担が重いということで、数年前から大きな社会問題として注目を集めました。また、部活動だけのせいではありませんが、教員の過重労働が深刻であることも広く知られるようになりました。

平成30年には国(スポーツ庁ならびに文化庁)でも、中高の部活動の休養日をしっかりとっていくことなどを求めるガイドラインを作成しました。わたしはガイドラインの策定の委員も務めました。まだまだ課題もたくさんありますが、国の動きもあって、各地の自治体、学校でも過熱化した部活動のあり方を少しずつ見直す動きが起きています。

そうした中、文部科学省は今年9月に休日の部活動を地域に移行していく案を示しました。民間のスポーツクラブや芸術文化団体などに運営を移行していくというのです。もっとも、国が音頭をとっても、実際に地域移行が進むかどうかは、各学校と地域次第というところは多分にあります。

きょうは、この案も踏まえつつ、部活動を地域に移行していくと、どのような変化、効果が期待できるのか、はたまた、どのような問題、課題があるのか、整理したいと思います。

地域移行の良さ、効果は?

さて、「なぜ、休日だけ?」という疑問は浮かびますが、おそらく、まずは休日からでも地域移行を促したいということです。平日の夕方空いている地域人材はそう多くないので、よりハードルが高いですが、将来的には平日についても地域移行できるものは考えていきたいというのが国のアイデアだろうと推察します。

では、部活動を教員主体から、地域主体にしていく良さ、メリットはなんでしょうか?

報道では、教員の負担軽減、働き方改革に資すことが強調されていますが、それだけではありません。と言いますか、さんざん、各地の教育委員会や学校向けに働き方関連の研修やアドバイスをしてきた、わたしから見ると、教師の負担軽減だけを前面に出しても、関係者の理解を得ることは難しいケースもあります。関係者とは、まずは先生たちで、部活動の地域移行に反対する人もいます(いろんな考え、捉え方はあっていいのですが)。そして、生徒や保護者です。

部活動のあり方を考えるうえで、外せないものがあります。なんでしょうか?

それは、まずは子どもたちを主体、主語にして考えることです(主には中高生ですが、一部の小学校でも部活動やそれに類する活動はあります)。子どもへの影響を最重要視していく必要がありますが、以下では、子どもへの影響、教職員・学校への影響、地域への影響の3つに分けて整理します(次の図)。

部活動の地域移行で期待される効果(例)

出所)筆者作成

子どもたちにとっては、部活動の選択肢が増えるという効果が期待できます(地域主体の活動を“部活動”と呼ぶかどうかは、ここでは置いておきますが)。たとえば、少子化が深刻な中学校などでは、文化部と言えば、吹奏楽部と美術部と科学研究部しかないといった例があります。地域主体でカルタ部、将棋部、茶道部などが展開できれば、より生徒の好きなことや伸ばしたいことで活動できますよね。運動部についても同様です。

また、教員が担う現状の体制では、特にその競技や文化活動の指導に長けている人ばかりではありません。教員のほぼボランティア的な協力で成り立っているのが、現在の部活動です。その教員は、たとえば社会科の先生として採用されているのであって、サッカー部の指導ができるということで採用されているわけではありませんから、教員側の技術力や見識が高くないのは、仕方がないことです。

これは教員にとっても、生徒(部員)にとっても不幸です。技術力のない人、あるいは場合によってはその競技等にたいして関心のない人が顧問になるわけですから。

さらには、子どもたちにとって、学校の先生でない人と接する、交流することにも意義があります。親や先生はタテの関係(評価する側、される側という関係)と言われますが、そうではない、ナナメの関係ができるわけです。さまざまな価値観をもつ大人がいることを知ることは、生徒にとっても大きな学びになることでしょう。また、地域主体では複数校が合同で集う場合などもありますから、生徒の交流も活性化します(試合などの敵としてではなく)。

ほか、書ききれませんが、前掲図にリストアップしたように、さまざまな効果が期待できます。地域にとっても大いにプラスです。子どもたちの成長に携われるというのは、地域人材にとっても生きがいになりますし、おそらく、健康寿命が延びる人もいるんじゃないでしょうか。

また、地域と学校、生徒らとの結びつきが強くなると、防災や防犯、あるいは授業での協力など、部活動以外でもプラスになることでしょう。困ったことがあると、助け合える関係が広がるというわけです。こうした点は、主たる効果ではなく、副次的なものでしょうが、重要な資産になると思います。

とはいえ、課題も山積みです。次回の記事では、部活動の地域移行の課題や主な問題点について解説します。

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表妹尾 昌俊
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年から独立。
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。
ヤフーニュースオーサー、教育新聞特任解説委員。
主な著書に『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『変わる学校、変わらない学校』など多数。5人の子育て中。
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年から独立。
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。
ヤフーニュースオーサー、教育新聞特任解説委員。
主な著書に『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『変わる学校、変わらない学校』など多数。5人の子育て中。
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