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綺麗好きにもほどがある。小児白血病の原因の99%は過剰に清潔な環境にある。

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私の友人に初孫ができました。女の子でとても可愛く、友人の小さな目に入れても痛くないくらいの溺愛ぶりです。いつもビデオを見せられます。1歳になったところですが、歩くよりもハイハイの方が得意なのか、家の中を這い回っています。何にでも興味があるらしく、ハイハイの途中に有るものは手に取って、次には必ず口に持って行きます。床に落ちている物でもお構いなしです。フローリングの床には、所々に埃も見えます。犬を室内で飼っているために毛も落ちています。鷹揚な友人は特に危険なものでもない限りは孫の好きなようにさせているようです。聞くと、彼のような親(祖父母)ばかりではなく、子供が触るところはすべてアルコールで拭いて、何でも口に持っていくのを厳しく制限している潔癖な親御さんもいらっしゃるようです。
昔の日本家屋は畳が多くて、掃除も箒でさっと掃くだけであったため、畳の目の間には今とは比べようもないほどの様々な異物が存在したと思われます。子供の口に入る細菌やウイルス、動物や昆虫由来の物質の種類や量は、今とは比べられないほど多かったと考えられます。現代に入って生活様式と人々の意識の変化によって子供の周りの環境は激変しています。

小児白血病の原因の99%は過剰に清潔な環境にある

 

子供の急性リンパ性白血病Acute Lymphocytic Leukemia(ALL)は先進国で増加し続けています。その中でも特に富裕層の子供に多いと言われています。その症例数は毎年約1%ずつ増加しており、日本では毎年約500人の新たな小児リンパ性白血病の患者さんが報告されています。先進国には子供だけでなく、成人のリンパ球性白血病やホジキン病などの悪性リンパ腫も多いといわれています。先進国によく見られることから、その原因について世の中では様々な推測がなされてきました。高圧電線からの電磁波、携帯電話からの電磁波、様々な化学物質等々がその原因ではないかとして長く取りざたされ、訴訟の対象にもなってきました。

そんな中、最近ロンドンのMel Greaves教授は自身や世界中の各分野の研究者が行った過去30年の研究から、ALLの原因として、乳児期の環境が極めて重要であるという結論を下しました1)。その上で、電磁波や化学物質は白血病の成因に関係ないと結論を出しました。Greaves教授は、急性リンパ性白血病は「幼児期、特に生後 1年までに清潔すぎる環境で過ごした子供たちが一般的な感染症(かぜやインフルエンザなど)に罹った後に発症する」と結論付けたのです。

彼の結論はこうです。

 

1. 初めに、母親の胎内で、遺伝子の異常が発生する。しかし、これだけで白血病になる人は白血病患者の約1%にすぎない。
2. 次に、その赤ちゃんが生後1年以内に、病原微生物にさらされる機会を失うと、赤ちゃんの免疫システムが病原微生物に対処する方法を学習できない。これが白血病になる素因を形成する。この赤ちゃんは病原微生物を排除する免疫が十分に発達しないため、いわば免疫不全の状態になる。
3. 子供の時に、このように感染症に罹りやすい状態になると、成長後に初めて感染症にかかった場合には遺伝子の異常を引き起こし白血病が発生する。

その傍証として次のような事実が挙げられています。

 

1.  ミラノで起こった豚インフルエンザによって7人の子供が急性リンパ性白血病となった。
2.  託児所に行った子供や上の兄弟がいる子供は病原微生物にさらされるため、急性リンパ性白血病になる確率が低い。
3.  母乳で育てることは子供の腸管内で良いバクテリアを育て、子供を急性リンパ性白血病から守る。
4.  病原微生物に触れることが少ない帝王切開よりも、経膣分娩の方が急性リンパ性白血病の確率が低い。
5.  病原微生物との接触が全く無い状態で育てられた動物は感染症にさらされた時に白血病を生じさせる。

パッと見は同じでも

 

赤ちゃんは、生後1年くらいまではお母さんから受け継いだ病原微生物に対する抵抗力を持っています。産後一週間くらいまでのお乳(初乳と言います)や胎盤を通じてもたらされるお母さん由来の抗体などによって、赤ちゃんは病原微生物に対する抵抗力が備わっているのです。この間に病原微生物の感染を経験すれば病気にならず、しかも病原微生物に対するリンパ球の品揃えを体の中に完備することができるのです。こうしておけば、お母さんからもらった抵抗力が消失した成長時にも、自前の免疫力で病原微生物を排除することができるのです。
しかし、子供の時に病原微生物の全く無いあまりにも清潔な環境でずっと生活していると、外から見たら異常は全く見られないにもかかわらず、いざ病原微生物に感染したときにはそれを完全に排除できない状態が起きてしまう、と考えられるのです。

白血病にならないために

 

ALLの治療は極めて進歩しています。小児ALLは治癒が期待できる疾患として知られていますが、治療は大変です。副作用もありますし、時間も費用もかかります。治療後の生活の問題、社会的支援についてもまだまだ問題が山積しています。がんになってからどう治療するかを考えるのが今までのやり方でしたが、Mel Greaves 教授の研究からは予防への期待が高まります。つまり原因の一つにあまりにも清潔すぎる環境があるならば、それを改善すれば良いのです。かといって、細菌の中に放り込むというのではありません。通常の生活、あるいは少し前までは当たり前であった生活を子供にさせれば良いのです。育児は母乳で行い、過度に清潔な環境で育てず、周囲に細菌がある環境で遊ばせ、友達と一緒に育て、野外に出して泥んこになるまで遊ばせる事が究極的なALLの予防法となるのです。私の友人のように、床をハイハイしながら様々な物を味見するのを許したり、フローリングを畳にしたり、動物と一緒に生活したりすることが理想的なのかもしれません。

これまで、「病原微生物」は人間の生活において害をなすものと考えられることが多かったのですが、近年においてはアレルギーからパーキンソン病、うつ病などに重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。「うんこの話」(https://web-opinions.jp/posts/detail/103)にも、関連した話題を少し書きましたので読んでみてください。次回はアレルギーの治療の大転換についてお話しします。

文献1)Mel Greaves A causal mechanism for childhood acute lymphoblastic leukaemia. Nature Reviews Cancer(2018)Published online 21 May 2018

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科教授松岡 順治
岡山大学大学院医学研究科卒業 米国留学を経て消化器外科、乳腺内分泌外科を専攻。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、緩和医療学講座教授、第17回日本緩和医療学会学術大会長。現在岡山大学病院緩和支持医療科診療科長、岡山大学大学院保健学研究科教授 緩和医療、高齢者医療、介護、がん治療の分野で研究、臨床、教育を行っている。緩和医療を岡山県に広める野の花プロジェクトを主宰している。
岡山大学大学院医学研究科卒業 米国留学を経て消化器外科、乳腺内分泌外科を専攻。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、緩和医療学講座教授、第17回日本緩和医療学会学術大会長。現在岡山大学病院緩和支持医療科診療科長、岡山大学大学院保健学研究科教授 緩和医療、高齢者医療、介護、がん治療の分野で研究、臨床、教育を行っている。緩和医療を岡山県に広める野の花プロジェクトを主宰している。
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