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介護情報ががん治療の選択に有用な理由

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前稿の介護の情報が がん治療を決める?において、がんの診断確定後に病院で治療方針を相談する際の介護情報を参考にしたがん治療選択について提起した。
本稿では、その続編(医療従事者向け)として、新たな視点や気づきを提供できればと考えている。

 高齢を理由に有効ながん治療の機会を逃してはならない
高齢期においては、加齢に伴う生活機能の低下に加え、諸々の疾患の合併もあって、治療成績は必ずしも芳しくない。本人も家族も治療を控える傾向がある。しかし、有効ながん治療の機会を高齢というだけで、逃すことがあってはならない。

 高齢者のがん治療選択において高齢者総合評価(CGA)を活用する動き
そこで、高齢者のがん治療にあたっては、がんの病期、悪性度など、がんの病態そのものに関わる評価に加えて、高齢者総合評価(CGA)を用いて、治療計画に役立てようという動きが広まってきた。

 

高齢者総合評価(CGA)を用いて、並存症、身体的機能や精神的、社会的機能などをあらかじめ評価することによって、治療の妨げとなる問題に気づき、必要な対処を執ることが可能となる。また、抗がん剤の有害事象、術後合併症、死亡などのリスクを予測して、治療選択、意思決定支援の一助とする。腫瘍学に関わる国際学会では、この高齢者総合評価(CGA)が高齢のがん治療に必要となる情報を提供できるという考えで一致している。

 

だが、なぜ高齢者総合評価はこのような有用性を発揮するのだろうか。

 高齢者総合評価(CGA)によりフレイルを評価できる
高齢者総合評価(CGA)の主たる目的の一つはフレイルを評価するものである。
フレイルとは治療などのストレスに対して脆弱となり、生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症も引き起こす危険を伴った状態のことである。

 

フレイルは本来、加齢に伴う運動機能、認知機能、栄養、複数の慢性疾患、抑うつなど、多元的な心身の脆弱性を評価したものだが、Fried らは主に身体の機能を中心とした評価法、(Cardiovascular Health Study;CHS index)を提唱しており、それによると、①体重減少,②主観的疲労感,③日常生活活動量低下, ④身体能力(歩行速度)低下, ⑤筋力(握力)低下の5項目について、3項目以上該当すればフレイル、 1〜2項目が当てはまる場合はプレフレイルとされる。高齢者のフレイルは、75歳以上で20~30%で、年齢と共に増加する。

 フレイルは慢性炎症と免疫異常を伴う
フレイルの背景因子としては、免疫、神経、内分泌、代謝などのシステムの異常が考えられるが、免疫学的な機序の研究が進んでいる。それによると、フレイルの高齢者においては、IL-6、CRP、TNFαなど、炎症メディエーターの血中濃度の増加が見られ、身体能力、筋力の低下と相関を示す。これは、加齢に伴う免疫系の異常として慢性炎症の存在を示しているもので、抗がん剤治療や手術の適応を考えるうえで重要となる。

 

ここでいう慢性炎症とは非感染性のもので、低レベルの炎症が年余にわたって持続する状態で、細菌の感染や創傷によって引き起こされる熱感、発赤、疼痛、腫脹などの症状を伴う急性炎症ではない。

 慢性炎症を惹き起こす病態には次に様なものがある
粥状動脈硬化では内皮細胞の機能障害に始まり、血管壁への脂肪の蓄積、微小血栓の形成が白血球の侵入を招き炎症性サイトカインの放出を招く。

 

肥満は内臓脂肪に炎症を惹起する。産生されたサイトカインは全身に影響して、一つにはインスリン抵抗性を上昇させる。

 

がん病巣も炎症を引き起こしており、高齢者のがんでは、CRPの上昇とがんの病期、すなわち進行の度合いとが関連することが報告されている。

 

ヒトサイトメガロウイルス感染症は、初感染ののち生涯その宿主に潜伏感染し、免疫抑制状態下で再活性化し、種々の病態を引き起こす。フレイルとIL-6血中濃度と抗CMV抗体陽性価との相関性が報告されている。

 

そして、高齢化の極みは、身体各所の老化した細胞それ自体が炎症性メディエーターや蛋白分解酵素を産生して、慢性炎症を引き起こすことである。

 フレイルに見られる免疫異常は感染リスクを高める

IL-6やCRPの上昇で示される慢性炎症は、免疫系を抑制するように負荷をかけている。自然免疫では全白血球数の増加、単球のLPSに対する反応性の低下、獲得免疫では、CD8+Tcell、CD8+CD28-Tcellの増加、CD4+Tcellの減少、CCR5+Tcellの増加が見られる。

 

これらの免疫の変化により肺炎球菌、インフルエンザワクチンに対する抗体産生の低下を示すことが知られ、これは当然、新規の病原体に対する応答は抑制され、敗血症のリスクが高いことが覗える。そして、感染後は炎症状態が遷延し、治療後の回復が遅れることになる。重症感染後の免疫抑制状態のために、ICUから退室したのちも炎症が繰り返し続き、タンパク質異化亢進が加われば、persistent inflammation, immunosuppression and catabolic syndrome (PICS)と呼ばれる深刻な状態となり、ほとんど悪液質状態と考えられ、死亡のリスクを高めることになる。

 まとめ

高齢者総合評価(CGA)はフレイルを評価することにより、その背後にある免疫の異常を察知するもので、高齢者のがん化学療法や手術の合併症のリスク評価に有用である。
それならば、IL-6、CRPによってリスクを判断すればより簡便とも言えるが、今のところ、高齢者総合評価の方がIL-6、CRPなどよりも合併症などのリスクを予知する能力が高い。

 

また、高齢者総合評価(CGA)の各指標は看護、介護職、さらには家族も理解できるもので、高齢者総合評価(CGA)によるがん治療の選択とその評価は、関係者の皆が納得のいく方法と考えられる。

鳥取市立病院 名誉院長田中 紀章
昭和43年大学卒業後、平成8年から大学にて、がん医療、肝移植、再生医療、緩和医療分野で活動。その後、鳥取での勤務において高齢者医療・地域医療の問題に直面し、病院の組織改革に取り組んだ。現在は、鳥取と岡山の二つの介護施設で臨床に従事する。
昭和43年大学卒業後、平成8年から大学にて、がん医療、肝移植、再生医療、緩和医療分野で活動。その後、鳥取での勤務において高齢者医療・地域医療の問題に直面し、病院の組織改革に取り組んだ。現在は、鳥取と岡山の二つの介護施設で臨床に従事する。
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