格差を解消するための仕組み

格差は、現代資本主義の必然的な結果とも言えるでしょう。


グローバリゼーションとITの発達に伴い、職人の追放、事務職の削減などが起こり、中間層が薄くなります。同時に企業の内部留保を手厚くすることへの批判もあり、企業は株主への配慮を強くし、その結果、資本家(株主)は、株価上昇、配当増加によって潤います。そして、一握りの高所得者が富の大半を握るようになるのです。

製造業の相対的縮小(これは生産性向上の結果であることに注意)と共にサービス業(人に奉仕する産業)の相対的増加が起こり、労働者もサービス業への就業が次第に増加します。しかし、サービス業の生産性は低く給与水準も低いのです。なぜなら、生活必需品が多くを占める製造業と違い、サービス業は価格が上昇すると、需要が減退します。(理髪店を考えてください)
結果的に、資産を基にした所得や創業者に対する高い給与に対して、サービス業を中心とする低所得が2極化していきます。その中間の製造業や事務職は次第に細っていくのです。この様な産業構造の変化は止められないでしょう。本来は、産業構造を2極化から防ぎ、中間層を手厚くすることが必要ですが(トランプ大統領も方法はともかく、行おうとしていること)それは、非常に困難であり良い方策は見当たりません。

 

その状態を補うものとして、再分配機能が重要となります。

再分配政策は、普遍的に行うか、選別的に行うかで方法が大きく分かれます。本来なら、不正が少なく事務作業も少なく、かつ、一般に受け入れられやすい普遍的再分配が望ましいのですが、それには膨大な財源を必要とします。社会保険は普遍的政策の代表例ですが、その為には高齢化率が高い日本では、多額の保険料・税金が必要となり、実施が次第に困難になると思われます。(現在でも医療保険や介護保険では、普遍主義の法則が崩れつつある)

 

社会保険と並んで普遍的再分配の代表が、先の総選挙で少しだけ話題となった「ベーシックインカム」です。「ベーシックインカム」の考え方は、一定の給付を国民全員に行うこと(子供を含む)です。その額の想定は最低限度の暮らしが出来る程度なので、現在の生活保護費(1人の場合)に相当します。子供はその半額と考えると、日本では約120兆から150兆円程度(年額)が必要となります。従来の社会保険の費用の一部と福祉予算の一部を含んだとしても、その資金は消費税に換算して、40%程度の税率になると言われています。しかし、この額はとんでもない訳ではありません。多くの欧州諸国の消費税率は25%程度なのです。消費税を少し抑えるとすれば、所得税の累進税率を高くすること、さらには資産税を加えることも必要かもしれません。

ベーシックインカム」を給付した社会では、働きたくない人は、働く必要はありません。最低限度の生活で満足すれば、働かなくてもなんら差し障りはないのです。他方、働くことによって、「ベーシックインカム」で給付される最低限の生活費に加えて、働いた賃金が獲得できるのです。
1930年代にジョン・メイナード・ケインズは、100年後には(2030年頃)、1週間に15時間程度の労働で生活できるような時代を想像しました。その時代が間近に迫っているにもかかわらず、実現出来ない状態から抜け出す方策でもあるのです。

 

再分配政策のもう一つの手段は、選別的に行う方法です。この代表格は意外にも、「新自由主義」の旗頭と目される、ミルトン・フリードマンが提唱した、「負の所得税」を基にした、「給付つき税額控除」があります。やや複雑ですが説明してみましょう。

 

「負の所得税」を基にした「給付つき税額控除」とは、普通行われている所得控除(一定の所得を差し引いた所得に一定の税率をかける)ではなく、所得にかけた税自体を一定額控除する仕組み(税額控除)です。さらに「給付つき」とは、税が一定以下の場合(税が控除額以下の場合)税を徴収する代わりに、給付を行う仕組みです。これは、低所得者に対する社会保障の役割を持つのです。例えば、税率が一律25%で(普通は累進税率だが単純にするために設定)、所得が100万円の場合で、所得控除が200万円の場合は、その人は税を納めないだけです。税率25%で給付つき税額控除50万円の場合は、まず、100万円の所得に対して25万円の税が発生し、その税から50万円を控除すると、-25万円となり、税額のマイナス分が発生します。このマイナス分を「給付する」のです。従って、100万円の所得の人は、125万円(本来の所得の100万円+給付の25万円)となり、低所得者に対しての給付が実現します。200万円の所得の場合は、税額が50万円に対して、税額控除50万円となり、差し引き0であり、手取りの所得は200万円となります。この様に、一定の所得水準を設定し、それ以上の場合は普通に税を徴収するが、それ以下の場合は、給付が発生します。「ベーシックインカム」と異なり、「負の所得税」を基にした「給付つき税額控除」は、選別を行うことにより、膨大な税と膨大な給付を回避できるのです。

(給付つき税額控除;25%の税率と控除額50万円の場合と何もしない場合の比較)

 

結果的に、「負の所得税」を基にした「給付つき税額控除」は、低所得者に対しては、給付を行い、ある限度内で給与が増加しても、それによって給付が無くなることがありません。一定の設定した生活水準に近い所得を確保するために、動機づけも保たれるのです。

格差の解消には、日本においての現実的な手法は、「ベーシックインカム」ではなく、「負の所得税」を基にした「給付つき税額控除」の採用と、累進課税の強化、そして資産課税を行うことによって、税制面での格差の解消を目指す方法が考えられます。

これらは、社会保険やベーシックインカムなどに代表される、普遍主義的な社会保障ではなく、財源が限られている場合に行われる、選別主義的な社会保障政策となるのです。

フリーライター渡辺嗣郎(わたなべ しろう)
専門は社会福祉全般。日本が抱える様々な社会的課題について、歴史×思想×政治×経済×世界…様々な視点から独自の理論を展開する。

専門は社会福祉全般。日本が抱える様々な社会的課題について、歴史×思想×政治×経済×世界…様々な視点から独自の理論を展開する。

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