皆さんも一度は食支援という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。私自身も歯科医師として食の支援をしなければと思った時、すぐに食支援という言葉が浮かびました。
そうだ、食支援をやろう!と。他の職種の友人たちにも食支援をやろうと言って声をかけました。いざ、多くの仲間たちが興味を持ってくれて集まった時、具体的にどんな活動ができるのか分かりませんでした。そこで原点に立ち返り、食支援の定義とは何だろうと思い調べてみました。しかし、驚いたことに食支援を定義しているものはどこにもありませんでした。それぞれの職種、それぞれの地域で自分なりの活動をして食支援と呼んでいるだけでした。
それならばと、私たち「新宿食支援研究会」では食支援の定義を次のように定めました。
本人・家族の口から食べたいと言う希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対して
① 適切な栄養摂取
② 経口摂取の維持
③ 食を楽しむことを目的としてリスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行っていくこと
これにより、対象者や目的が明確化しました。
低栄養という言葉を聞いたことはお有りでしょうか。エネルギーとたんぱく質が欠乏し、健康な体を維持するために必要な栄養素が足りない状態をいいます。この低栄養を防ぐこと、回復させることも食支援の目的です。「国民健康・栄養調査」(厚生労働省、平成27年)によると、65歳以上で16.7%、80歳以上では2~3割が低栄養傾向と示されています。例えば、私たちが活動する東京都新宿区では、人口が約34万人。高齢化率が約20%で老年人口が6.7万人。そうすると低栄養傾向の高齢者は1万人規模でいると考えられます。このような方すべてに専門職が面会をしたりして指導をすることなど到底考えられません。だとすれば、市民自らが食と栄養の知識を持ち、自分の栄養は自分で守る、必要な時は専門職に頼るという体制を作らなければなりません。これこそ地域食支援なのです。そう考えれば専門職の役割は大きく2つです。何か大きなトラブルがあった時、専門職がその専門性を生かして結果を出すこと。もう1つは、食と栄養に関する社会教育です。
「新宿食支援研究会」は150人近い専門職のメンバーが参加していますが、彼らに求めるものはこの2つです。
これほど多くの低栄養の方が地域に存在するのですが、栄養指導自体に意義を感じている人も多いとは言えません。例えば、栄養指導してくれる管理栄養士さんがいたとして、自ら予約をとってその指導を受けたいと思う人はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。その指導が有料であったとしたらどうでしょう。自分の体を守る意味で栄養が重要なことは誰もが知っていても、それをプロフェッショナルから指導を受けようという感覚がありません。それは、高齢になっても一緒ということです。
実は、栄養に関する社会教育の大きなネックはここなのです。病気になったら病院で医療を受けてお金を払うということは当たり前に考えていても、病気になる前に、栄養士にお金を払って指導を受けるということを考える人はいません。これに関しては私自身も長年悩んでいましたが、最近、少し光明を見出せるのではないかと思っているものがあります。スポーツ栄養という分野です。東京オリンピック、パラリンピックが近づく中、多くの種目で若い選手が台頭してきています。そこに、ちらちらとスポーツ栄養に関する情報が出てきています。「栄養は体に良いんだ」と言うことが多くの方に浸透するかもしれません。F1のようなモータースポーツによって自動車技術が発展したように、スポーツ栄養が一般市民の栄養に対する意識を変えてくれるかもしれません。
多くの地域で食支援という言葉を使って活動が行われています。しかし、多くは限られた数の摂食嚥下障害患者へのチームアプローチにすぎません。私自身はその地域における多くの方たちの予防から治療までを含めたアプローチこそ食支援だと考えています。
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