

前回は、筆者の暮らすニセコ町と東西に隣接する倶知安町、蘭越町の3町で組織するニセコ観光圏の交通課題への取り組みを取りあげた。ニセコ観光圏では「住んでよし、訪れてよし」の実現を目指しているが、今回は観光圏内で住民が感じている価格高騰の負担感をどう解消していくかを考えたい。
ニセコは世界的なスキーリゾートとして知られ、外国人観光客の増加に伴い物価や家賃の高騰が顕著になっている。冬には「おにぎり1個1000円」「天ぷらそば3500円」といった価格で提供されることもあるのだ。温泉入浴料やスキー場のリフト券もコロナ禍以降急騰し、現在は国内トップクラスの価格帯となっている。
ただし観光関連従事者の収入も増えており、人材獲得競争の影響で他業種の賃金も上昇している。それでも地元住民の平均年収(約400万円)とは釣り合わないという声もある。一方で生活物価は全国平均から大きく乖離しているわけではない。2025年10月時点でのニセコ町のカレーライス物価指数は430円で、全国平均の451円を下回っている。
こうした情報発信により「ニセコの生活費は極端に高いわけではない」と理解を広げようとしているが、住民が実際に不満を感じているのは別の部分である。それが、日帰り温泉やリフトチケットなど、地域資源を地元住民が利用する際の料金だ。
現在も各企業の善意により自町民向けの「地元割引」は設定されている。しかし同じ生活圏、経済圏を形成している3町であっても、割引の対象は自町民に限られる場合が多い。買い物や通院、通勤・通学で日常的に行き来する隣町であっても、温泉やスキー場は観光客と同じ料金になる。この町境の壁は住民感情として納得しがたいものがある。
観光圏事業の目的の一つは、住民満足度である「住んでよし」を実現することだ。さらに地元住民の定義を段階的に北海道民や日本国民へ広げる検討も必要だろう。いわゆる「二重価格」のテーマにあたる。海外では一般的な観光政策であり、日本でも沖縄のテーマパーク「ジャングリア沖縄」が訪日客向けの二重価格を導入した。インバウンドで価格が高騰する地域の飲食店でも、日本人や在住者向け割引の例がある。
ニセコは「おにぎり1個1000円」「天ぷらそば3500円」といった価格がつく時期・エリアがあり、地域住民がそこを利用することはほとんどない。しかし隣町の温泉やスキー場の料金が急騰し、住民が足を運ばなくなるのは、地域にとって大きな損失だ。温泉やスキーは観光資源であると同時に、ずっと昔から地域住民に親しまれてきた文化でもある。
では、3町住民が相互に地元割引を利用できるようにするにはどうすればよいか。これまで通り企業側の善意だけに甘えて割引差額のすべてを企業側に負担させるということにはならないだろう。現実的に考えるなら、既に実施している自町民向けの地元割引を他の2町の住民が利用した場合にも適用し、生じる定価との差額を各町の宿泊税等の観光予算で、間接的にでも事業者側に補填する仕組みはどうだろうか。つまり、インバウンド観光客が押し寄せたことにより、地域住民の地元体験費用が高騰したことを観光公害(オーバーツーリズム)と捉えるならば、その対策として観光税収を充てるのは有効と言えるのではないか、ということだ。
さらに範囲を広げ段階的に北海道民割引や日本国民割引として恩恵が受けられるようになれば、内需拡大に貢献する取組みになるだろう。財源にも北海道の宿泊税や国の出国税収などの観光予算を充てられるならば、観光税収の地域内(道内・国内)循環に資する使途になるはずだ。オーバーツーリズム対策が語られる時、ネガティブな課題の対応に予算が割かれることが多いが、これまで国内観光の主役であった日本人の旅行需要を喚起するようなポジティブな予算の使い方がもっと検討されて良いのではないかと思う。
ニセコは温泉とスキーが地域文化として根付いてきた歴史がある。ニセコ観光圏には7種類の泉質があり、全国で5人しかおらず、北海道唯一の「温泉ソムリエ師範」も在住している。スキーも100年以上前にオーストリア出身のレルヒ中佐が羊蹄山周辺で広め、地域の子どもたちから世界で活躍する選手が生まれてきた。
こうした資源と文化が単なる観光ビジネスの道具になってはならない。ニセコの発展は100年以上前の入植者たちの努力から始まり、地域事業者は住民への還元を続けてきた。外国資本が増えた現在でも、その歴史を理解する経営者はいる。
観光事業者、地域住民、自治体の3者は、対立する存在ではない。相互理解と協力によってこそ「住んでよし、訪れてよし」は実現される。その取り組みこそが観光地域づくりを盤石にし、隣り合う過疎自治体の生き残りにもつながるのではないだろうか。







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