

日本の地方が抱える問題は多岐にわたる。少子高齢化による人口減少や労働力不足、若年層の都市流出、担い手不足により細る公共交通の課題など枚挙に暇がない。これらは規模の差はあれ全国の各地方で共通する深刻な課題である。今回は筆者の暮らすニセコ町と東西に隣接する倶知安町、蘭越町の3町で組織するニセコ観光圏の取り組みを紹介し、観光産業を通じて同じ生活圏・経済圏を有する自治体同士が協力して、如何に生き残りを図れるかをテーマに考えたい。
ニセコ観光圏は北海道後志管内の上記3町で構成され、「NISEKO, My Extreme」というブランドコンセプトで国内外からの来訪者にニセコ固有の究極の滞在体験を提供することを目指している。これは観光庁が進める観光圏整備事業の趣旨に沿って国際競争力の高い観光地域づくりを実現していくという事業である。観光圏制度は複数自治体の連携によりインバウンド受入基盤を整備するもので、現在認定されている観光圏は全国で11地域となっている。
複数の自治体が広域で連携する必要性の一つは、観光客が「ニセコ」という地域全体を目的に訪れる一方で、自治体ごとの予算制約により各観光協会が自町のみの観光政策や情報発信にとどまるため、来訪者が町境を越えるたびに別の地図や案内を手にする不便が生じる点である。筆者はニセコリゾート観光協会の代表を務めると同時に2015年からニセコ観光圏の観光地域づくりマネージャーの1人として微力ながら役割を担い、自治体の枠を超えた来訪者に配慮した滞在環境整備を進め「世界から選ばれるニセコ」の実現を目指している。
こうした動きは日本版DMOなど政府の観光立国政策と整合し、観光による経済効果で地域と国の基盤を強化しようとするものである。観光客の来訪者満足度向上の「訪れてよし」と並び、地域住民の生活満足度向上つまり「住んでよし」を両輪としてバランスよく高めることが持続可能な観光地域づくりの基盤となるのである。このニセコ観光圏運営のプラットフォーム組織「ニセコプロモーションボード」に3町が負担金を拠出しあって広域連携の事業を執行していく仕組みは既に出来上がっている。
そして世界中の観光地が直面する問題のひとつとして地域内交通の整備がある。特に観光客の増加が市民の移動を圧迫するオーバーツーリズムの問題が顕在化しており、ニセコ観光圏でも冬季に観光客が集中するエリアのタクシー不足が深刻な課題となっていた。そこでニセコ観光圏では2023年度から「ニセコモデル」と称する施策を開始し、GO社の配車アプリ「GO」を活用して他地域からタクシー事業者と乗務員を派遣できる仕組みを導入することで、限定区域内での営業を可能にして地域の交通課題を緩和するとともに、住民向けの従来台数の確保にもつなげている。
初年度は札幌・東京から8社11台25名の派遣で始まり、24年度には札幌・青森・東京から12社20台45名と前年度の約2倍規模に拡大した。今年度はさらに隣接交通圏からの応援隊も加わって応援隊と地元事業者を合わせて合計19社54台が稼働している。こうした段階的な拡大により冬季のインバウンド増加に対応しつつ住民の移動確保を両立させることが期待されている。
一方で「タクシーは小回りが利いて便利な反面、利用料の高さがネック」と感じている地域住民も多い。というのも、これまでは路線バスの充実により担保されていた地域の移動が、運転手の人手不足により徐々に路線廃止になっているのだ。代替手段としてタクシーでは全てを補いきれないという現実がある。ならば限られた交通資源の活用をもっと柔軟に考え、隣り合う自治体の壁を越えることで突破できる課題もあるのではないか。
そこで今回アイデアとして考えたいのがデマンドバスの越境プロジェクトである。デマンドバスとは各町独自の交通事業で、主に住民のために乗合い式で運行されている自町内限定の送迎システムである。料金も無料~200円程度で利用でき、クルマを運転できない地域住民たちの便利な味方となっている。これを、町境を越えてリレーできるように3町で相互に運行できるように制度を整備すれば、基幹病院や温泉や買い物への移動に最適なルートを実現でき、地域内交通の利便性が更に高まると考えている。決して財源論を無視した夢物語などではなく、ニセコエリアで徴収される宿泊税の一部を各町が議会の承認を得て充当していくことが出来れば十分に実現可能性はあるはずである。このスキームを今のうちから確立しておくことで3町をつなぐJR在来線の有事の際には、臨時的に補完する意味でも有効に機能するのではないだろうか。
今回のように「ニセコモデル」を起爆剤に交通課題を克服し来訪者から選ばれる魅力的な観光地域づくりを実現する一方で、来訪者からの宿泊税を財源にその生活圏に住む住民の幸福度や利便性の向上を実現できるならば、観光公害などデメリットばかりに目が行くことはないだろう。観光収益が地域を潤し、その恩恵を来訪者と地域住民で共に享受していくことがまさしく持続可能な観光地域づくりの要諦となってくるのである。隣り合う町同士の合併の是非を議論するより先に、今ある観光資源や地域の知恵を活かした解決策がもっと考えられるはずだ。越境デマンドバスのような連携策と宿泊税のような具体的な財源の活用で、過疎自治体同士の持続可能性を高めていくことが今後ますます求められる。







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