

今回はニセコエリアの住まいにまつわる話。
誠に勝手ながらここで言うニセコエリアとは私の暮らしているニセコ町と、お隣の倶知安町の2つの町を指すことにする。両町合わせて人口約2万人の中山間地域だ。冬は国際スノーリゾートとなり、観光客と外国人労働者の流入で人口が1~2割増える。昨今だと、『高級』『インバウンド富裕層』『選択と集中』などのキーワードを連想させる地域となっている。
だが、このエリアが特徴を発揮する季節はパウダースノーが降り積もる「冬」に限られている。春夏秋は、世界的リゾートとしての存在感は薄く、冬の高級イメージが国内からの来訪者を遠ざけている。日本人旅行者であれば「適正な価格で旅行したい」と思うのは自然だろう。しかしこれは「冬の外国人による彼らのためのビジネス」がある意味成立してしまっているだけなのだ。そしてこの“ニセコ有名税”は、国内資本の通年型ホテルや日本人観光客にとっては逆風となっている。
住宅も同様だ。これまで冬だけ増える人口に対応すべく供給されていたアパートや従業員用宿舎などの確保が、昨今では冬の商売の企業の方々により通年に渡って確保される現象が起きている。外資企業は、シーズンオフも家賃を払い続けて物件を確保できる資金力があるため、オフシーズンは空き家のまま囲い込まれ、慢性的な住宅不足を生んでいる。たとえ部屋を借りられたとしても「冬になったら出ていってください」と言われてしまう。こうして、「北海道移住相談会」のニセコ町のブースで移住を決意しようが結局「移住したいけれど、家がない」という現実に突き当たる。
全国の過疎地と同様にニセコエリアにも空き家はあるが、持ち主側にも事情があり貸したり売ったりできないケースも多い。「都会に出た子供たちが戻って来て住むかもしれない」「仏壇や荷物がそのままだから」という理由も多い。また、雪国ならではのリスクとしては、空き家で冬を超えるうちに雪によって家屋がつぶれ、更地にするにも相当な撤去費用がかかってしまう例も多い。さらに、更地にすると固定資産税が最大6倍になる制度も障壁だ。これらのハードルを越えて外資系の開発事業者が廃屋や空き家を買い上げてリフォームするケースもあるが、移住者用の住宅に再活用されることは少ない。先述のとおり、冬季の外国人従業員用の宿舎にしたり、利益率の高い民泊物件として活用したりしてしまうのだ。
「ニセコバブル」と言われるように、ここ数年ホテルやコンドミニアムの建設ラッシュが続いている。これは、世界の富裕層が物件を購入し、管理会社に宿泊施設として運営を委託するビジネスモデルだ。資産運用として有望なため物件は売れるが、現場では清掃従業員が足りていない。その結果、清掃員の奪い合いが起き、「時給2,000円」「2,300円」と冬限定の賃金競争が加速する。これにより、スーパーや介護施設で働く方々などを募集する時給相場にも影響を及ぼし、勝ち目のない競争に巻き込まれて立ち行かなくなるケースが起きている。
さらに、外資系宿泊施設の中には、札幌や千歳から清掃要因を集めるために無料送迎バスを出すところもある。片道2時間かけて通う人がいるほど時給が高いということなのだ。その原資は、海外のゲストが払う一泊数十万円もする宿泊料である。働く側も、これだけ稼げるなら遠方から通うよりアパートを借りた方が合理的だが、ワンルームでも家賃が高騰している。アパート需要を見込んで建てた大家側も、高騰するアパート建築費を短期で回収すべく強気の家賃設定をしているのである。外資系企業がいくらだろうと通年で借り上げてくれることで、そうした状況が成立しているのだ。
倶知安町では現在、町内に点在している冬季の外国人従業員用のアパートなどの宿舎を集約しようとする動きがある。ニセコエリアのリゾートで働く外国人ら最大1200人が住める共同住宅を、市街地に隣接する農地に建設する計画を進めているのだ。予定地は約2.7ヘクタールの農地で、鉄骨造り2~3階建ての共同住宅を30棟建設する計画だった。冬季にホテルやスキー場などで働く外国人労働者、夏季は建設作業員らの入居を見込んでいる。ただ、人口の1割近くが集まることになる大規模共同住宅計画に、近隣住民から交通量の増加や生活音などへの懸念が高まっていた。そこで開発業者は周辺自治会などとの意見交換の場を設けた上で、着工を遅らせ建設棟数も絞り、入居者の生活状況などを見極めながら順次、棟数を増やす方針に転換したのである。
ところがその後、町農業委員会の総会でこの大規模共同住宅を建設するための農地転用について審議し、「地域調和を考えた上で賛成しがたい」と反対する意見書を北海道に送ることを全会一致で可決したのだ。同委が農地転用に反対するのは極めて異例なことで、許可権のある北海道の判断が注目される。町農林課によると、当該地は転用が原則許可される「第3種農地」で、「事業に必要な農地法以外の法令の許可見込みがあるか」など複数の基準も満たしているのだという。
日本経済新聞では地方の基準地価が32年ぶりに上昇したと報じられたが、ニセコ町ではすでに8年ほど前から上昇が続いている。令和6年度の役場周辺の基準地価は1㎡あたり18,000円。実際の取引ではその数倍になる地点もある。建設費も高騰しており、一般住宅でも総額6,000万円規模になることは珍しくない。一般住宅を建てようと思ってもニセコ町近辺では工務店が見つからず他のエリアから来てもらうこともよくある。そうなると移動費や滞在費も余計にかかることになり工期が伸びれば、その分コストも膨らむ悪循環となっている。
だが真に憂うべきはお隣の倶知安町駅前の再開発エリアである。2038年以降の北海道新幹線開通を見込んで駅前通りの土地取引が活発な状況となっているが、実際に通りを歩いてみるとシャッターの閉まった空店舗や空き地などが目立つ。これまで「住むため、商売のため、地域のため」に活躍した店舗物件たちが「売るため、転がすため、寝かすため」に外資間で取引されているような実態もある。こうなると市場取引上の地価はさらに上がり、まともに固定資産税を払って暮らしている住民たちは馬鹿らしくなり、「高いうちに売却して札幌のマンションあたりに引っ越してしまおう」という現象が起きてしまうのだ。その結果、コミュニティは痩せ細り、実体なき地価上昇だけが残る。
「家を建てるのに6000万円かかっても数年後に7000万円で外人に売ればいいんだよ」
「ニセコなら良い値段で外人に売れるから無理して建てちゃっても大丈夫」
「こんなに値上がりするならあの辺りの土地も外人より先に買っておけばよかったね」
と、私の周りでも冗談まじりにそんな声があちこちから聞こえてくるようになった。これはニセコに限ったことではなく、短期利益のための投機的な価値観が世に蔓延ってきているためなのだろう。
これまで住宅を建てる日本人は家族が住むために一生の買い物として「夢のマイホーム35年ローン」を組んで購入したものだ。だが、ニセコをはじめとするインバウンド活況の日本各地においては、住むためではなく「儲けるために買う」という外国人が急激に増えてきた。そのグローバルな価値観に日本人が悪い意味で影響を受けているように感じる。
差益だけで物件を買う投資家に、地域の絆は関係ない。だが、この土地を愛し暮らす外国人世帯もいる。後者のように地域に溶け込んでいるファミリーは、国籍に関わらずニセコをこよなく愛しているのである。地域に住み続けようとする住民にとって、地域のコミュニティやニセコエリアの自然環境は、金銭的な価値には替えられないと思っている。
そうしたニセコへの地域愛に溢れた人たちや移住を希望する人たちに適正な価格で住宅が供給されるような持続可能な取り組みが、今後さらに求められていくべきなのではないだろうか。







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