

教員としての最後の2年間、ペンや鉛筆で採点することは、年に一度しかなくなっていました。オンライン・デジタル採点はゲームチェンジャーです。一般に言われる働き方改革の文脈だけではなく、教育活動においても、です。採点方法やワークフローは教科や学校規模、教員により異なります。あくまで一事例としてご笑覧ください。
よく混同されますが、デジタル採点とオンライン採点、自動採点は異なります。
・デジタル採点:紙とペンではなく、PC上などで採点を行う
・オンライン採点:オンライン上で採点できるので、勤務地以外からも採点が可能
・自動採点:AIや機械学習などを用いて、自動的に採点をする
現在市場に存在する採点サービスは、これら3つが重なり合いながら構成されています。私が使用していたシステムは全てを備えたものでした。デジタル・オンライン採点の最大の優位点は採点のスピードと精度の向上です。通常、1クラス分の答案用紙をひとまとめにし、クラスの数だけ束が出来ます。仮に6クラスを3人で担当する場合、採点する設問を分担します。2クラス分ずつローテーションしながら完成させます。物理的な紙束を分け合って採点するので、順番待ちが発生していましたが、これがなくなります(地味に大きい)。
そして、物理的な採点には、「紙をめくる」という作業が発生します。デジタル・オンライン採点を始めてから「めくる」という行為が時間の取られる作業だとわかりました。採点自体は簡単な設問でも、物理的な採点では240枚「めくり」ます。採点に20分程度かかります。しかし、デジタル・オンライン採点は1問あたり2,3分で採点が終了します。「めくる」という行為がないだけでこれほどまでにスピードが上がるのかと驚きました。これは確かに働き方改革であり省力化です。
記号や簡単な数式、英単語は自動採点の出番です。目視でのチェックを含めても圧倒的なスピード感で採点が終わります。興味深いのは、自動採点に教育効果があったことです。明瞭な文字で解答することを生徒に求めるのは、一つの教育課題です。私自身も苦労していました。いくら指導しても書字の判読性に課題のある生徒の答案が変わることはありませんでした。しかし自動採点によって劇的に変化しました。「機械が判定できる字を書きなさい」。その指示だけで書字の判読性が向上しました。これは思いがけない教育効果でした。
デジタル・オンライン採点では、答案を見返すことが非常に容易です。紙の場合、似た答案を見つけて比較したい時や採点基準を再検討したい時、目的の答案を見つけるのに膨大な手間がかかります。見つけられないこともあります。デジタル・オンライン採点では、この「見返す」が容易(というより実現可能)です。また、記述問題に対するフィードバックのコストが劇的に下がりました。これまで記述問題は、採点の手間を考慮すると頻繁に出題できませんでした。しかしデジタル・オンライン採点の登場により、その手間が「現実的に手に負える範囲」になり、分量の多い記述問題の出題頻度を上げることが可能となりました。連続的・継続的に出題を続けると答案の質も変化し、平均点が上がりました。無解答者も劇的に減りました。様々な批判はありますが、テストは生徒が切迫感をもって臨む教育活動の一つです。テストに対するアプローチが変化すると、教育効果も変化するということを実感しました。今までやっていたことを単にデジタルに移行することを「デジタル化」、デジタル化することによって人々の行動が変容することを「DX」と定義するのであれば、これは確実にDXであると言えます。
物理的な答案を学外に持ち出すことなく、学外から採点できることは非常に魅力的でした(働き方改革には逆行しますが)。学外からアクセスする場合は、個人情報がオミットされて答案が表示され、個人情報に配慮がなされています。採点業務は時間的な制約も多く、学外への持ち出しは原則的に認められていません。しかし、一定の条件下で学外(主に自宅)に持ち出して作業をすることは、慣行として行われてきました。リスクを低減することができるソリューションが用意されたことは非常にありがたく思います。さらに言えば、出張先などでスキマ時間を使って採点を行えるのは、働き方の変容を感じました。
一方、デジタル・オンライン採点でなくなったものも存在します。一例はテスト終了後の生徒との会話です。「先生、私、何点でした?」、「うーん、XX点くらいかなぁ」といった会話がテストの後、散見されていました。デジタル・オンライン採点になってからはこの質問に答えることができなくなりました。串刺し採点(設問ごとに採点すること)をするので答案の全体像がわかりません。答案と生徒名が意識の中でリンクしません。公平性の観点からは良いことですが、指導の観点では失われるものがあります。「この生徒だったらこのくらいできないとおかしいけどできていない。何かあったのだろうか。」「いつもはできていないのに今回は頑張った。」というような気づきが失われます。「めくる」という行為が手間のかかる作業であることは前述の通りですが、何度も何度も答案を「めくる」ことで、答案を何度も何度も見ることにもなります。今までは、こうした行為によって個別の生徒や集団の全体感が養われていたのだと気づきました。こうした答案への「感じ」が積み重なることで指導上の「勘」へと昇華されるのだと思います。私はこうした「勘」を身につけてからデジタル・オンライン採点の恩恵に浴した者ですが、そうした「修行」を経ていないデジタル・オンライン採点ネイティブの教員は、この「感じ」をどう身につけるのだろうか、それともそうした「感じ」や「勘」は必要がなくなるのだろうか。非常に興味深く思います。







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