物価高騰に対するポピュリズム

行動経済学者であるダニエル・カーネマンのプロスペクト理論によると、1万円を提供するとした場合、直ちに1万円を受け取るか、1年後に1万1000円を受け取るかを聞いたところ、大多数の人が直ちに1万円を受け取る方を選んだという。1年後に1万1000円を受け取ると、年10%の利息がつくにも関わらず、である。(定期預金の利息は年0.5%以下)。これを「時間割引」あるいは「現在バイアス」といい、利息年10%はどの国でも得になるにもかかわらず、人間はしばしば論理ではなく直感(ファストな思考)で判断するという。

また、有名な研究でマシュマロテストもある。この研究では、子どもに対し、即時に得られる小さな報酬か、一定期間待った後に得られる2つの小さな報酬かを選択する機会が与えられ、もし、子どもがマシュマロを食べなかった場合、もう1つのマシュマロを与えられると告げた。研究者は子どもをマシュマロ1つだけがある部屋に約15分間放置し、その後戻ってきた。追跡調査において、食べずに我慢できた子どもたちは、より良い人生の結果を持つ傾向があることを発見した。つまり、論理的に考え、成功する人は少数で、ファストの思考が優位を占めるということだ。

ポピュリストが広めている思想はファストな思考だ。将来のことは考えず、現在のことのみを最優先して考える習性である。典型は、インタビューでよく見られる「少額でも貰わないより貰えたほうが良いです」との回答だ。庶民にとってはそうかも知れないが、政治を預かる国会議員では、インフレ時に、一時的な給付よりも、本来の物価高対策である、利上げを支持するような政治家がいてもよいのではないか。物価高対策で少額の給付金を与えられたことを歓迎し、国民がその政党を支持することは理解できるが、政治家はファストな思考で人気を得るのか、あるいは、本来の物価対策としての利上げを支持するのかが問われる。

多くのポピュリスト的な政治家は、現在のこと(特に選挙)を優先的に考えて、将来のことは、その時の事とみなしている。つまり、現在少しでも国民の支持を上げるためには、赤字国債を大量に発行し、減税をやり、給付金を配ること、そして、先のことはあまり考えない。目的は選挙民の関心を得ることだ。国民は将来のことよりも、目先のことで動くと信じているのだ。

とはいえ、将来の負担を無視して現在の利益だけを追求する姿勢は、国家の持続可能性を損なう危険を孕んでいる。確かに、目の前の有権者にとっては、減税や給付金といった即効性のある政策は魅力的だ。しかし、それらが財政赤字を拡大させ、将来の世代に重いツケ(短期的にはインフレが強くなること、長期的には、さらに激しいインフレや財政破綻)を回すことになれば、本末転倒である。ファストな思考を基にした、現在バイアスに基づく政策決定は、一時的な満足を生むかもしれないが、長期的には経済や社会全体の不安定化を招く。選挙でウケのみを考えて、短絡的な政策を打ち出す政党に、国民はもっと厳しい目を向けるべきだろう。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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