

大学生 戸成一翔(22歳)
昨年、私はベトナムの国立ハノイ教育大学で市民教育を学ぶ機会を得ました。異国の空気と視線の重さに圧倒されながらも、そこで出会った人々の素朴な優しさや勤勉さに、深い「愛」と「希望」を感じました。しかし、この旅は同時に、日本の「外国人犯罪問題」の根底に横たわる「構造的悲劇」の深さを悟る旅でもありました。
ハノイのキャンパスの外には、社会主義の理想である「共同体の精神」が、急速な市場経済化による激しい「競争社会」の中で、もはや届かない理想となっている「乖離」が広がっていました。
その乖離が最も痛ましく現れていたのが、私が北部の山間にある少数民族の村で目撃した光景です。大型台風通過後、都市ハノイが軍隊によって数日で復旧したのとは対照的に、この村には嵐の爪痕が深く残されたままでした。そして復旧作業を担っていたのは、重機や大人ではなく、明らかに一〇代と思われる幼い子供たちでした。
彼らは、小さな体で天秤棒を担ぎ、日給数百円という信じがたい賃金で瓦礫を運び出していました。その顔に滲むのは疲労だけではありません。それは、基本的な生存権と公正な分配が届かない現実への、深い諦念でした。
この光景は、私に痛切に訴えかけました。経済成長の恩恵は一部に集中し、取り残された地方の人々は、幼い子供までもが自力で生計を立てるために、「近隣諸国への出稼ぎ」という、搾取の危険に満ちた、そして犯罪の温床となり得る道を選ばざるを得ない。彼らは、自国の貧困と不平等から逃れるために、文字通り「人生を賭けて」日本にやってきているのです。この根深い構造的貧困と不平等こそが、日本の「外国人犯罪」という問題の土壌に他なりません。
留学後、私はベトナム人エリート層の友人たちと、日本の犯罪報道についてチャットを交わしました。彼らの反応は私の想像をはるかに超えて厳しいものでした。「奴らは日越共通の敵だ。日本はもっと厳しく取り締まっていい。」、「彼らのほとんどは南部出身の裏切り者だ。ベトナムの恥だ。」
この強烈な断罪の言葉は、違法行為者に対する線引きの裏にある、ベトナム社会内部の深刻な「階級的・地域的断絶」を露呈させました。ハノイのインテリ層は、地方の貧困層を「未開な存在」と見なし、自分たちとは一線を画していました。この「断絶」の構造こそ、日本国内の外国人コミュニティの相互扶助を妨げ、結果的に犯罪を生み出す構造的な脆弱性を加速させているのかもしれません。
彼らが背負った借金は、罪を犯したり、日本人に危害を加えたりする免罪符にはなり得ません。これは個人の行為として断罪されるべきです。
しかし同時に、日本側が「技術移転」という空虚な大義名分を盾に、外国人労働者の人権を構造的に侵害する搾取のシステムを黙認し、彼らの生存の道を断ち、結果として「犯罪者」へと追い込む構造的差別を放置したならば、それは国家としての「理念の放棄」に他なりません。
自由、平等、人権、多様性という崇高な理念は、個人の善意や「愛」だけでは守れません。それは、私たち一人ひとりが、社会にはびこる不平等や差別に果敢に戦いを挑み、人間の尊厳と法の普遍性をもって構造的な問題にメスを入れる「覚悟ある努力」によってはじめて守られるのです。
私は、ハノイの教室で未来を語り合った友人たちの輝く瞳と、山村で重い瓦礫を運ぶ幼い背中の両方を知っています。彼らを搾取と犯罪の淵に追いやる構造を放置することは、彼らが持つべき人権と自由、そして未来への多様性の可能性を摘み取ることになります。
多文化共生という理念を真に実現し、日本の治安と人々の尊厳を守るため、私は強く求めます。安価な労働力への依存という日本の自己中心的な欲望を断ち切るために、人権侵害の温床となっている技能実習制度を直ちに見直すこと、企業やブローカーによる搾取を許さない、厳格な罰則規定を設けること、そのうえで現地の経済格差をなくすための援助を行うことは急務である。
これは、搾取の構造を断ち切り、彼らの生存の道を確保し、ひいては日本の治安と法の秩序を真に維持するための、理念に基づく覚悟なのです。
私たちは、荒々しい欲望にひれ伏すのではなく、理性という光を灯し、人類の普遍的価値として築き上げた崇高な理念を、未来の世代へ確かに受け継いでいく責任があります。我が国と世界の未来は、この厳しい現実に目を背けず、理念に基づいた覚悟ある行動を取れるかどうかにかかっています。







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