

経済常識から言えば、インフレは債務者(お金を借りている人)にとって都合が良く、債権者(お金を貸している人)にとって都合が悪い。なぜなら、100万円を貸している人が5%のインフレ下では、1年後に貸した100万円の価値は95万円に下がるからだ。つまり100万円借りた人は、1年後には実質95万円の借金減額となる。もちろんその保証として、金利がつく。5%のインフレ下では金利が5%つけば、1年後の収支はイコールとなるが、現在の日本では、定期預金の1年金利は0.275%である。インフレ率よりも大幅に低く、実質的にマイナス金利となっている。
現在、日本における最大の債務者(お金を借りている人)は日本政府だ。2025年末の国債残高は1129兆円。2025年9月のインフレ率は2.9%なので、単純に計算すると(1129兆円☓2.9%)で年間33兆円分の価値が無くなる、つまり借金がそれだけ少なくなる計算である。
では、そのつけはどこに行くのだろうか?素朴に考えると、インフレを被っている国民全体が薄く広く負担していることになる。また、インフレの結果として、政府の税収も大幅に上振れする。2025年の場合、インフレ率が3%とすれば、単純計算で景気が変わらない場合、約3兆円の税収増が予測されるという(消費税0.8兆円、所得税0.6兆円、法人税0.5兆円など)。それに加えて、インフレのとき、概ね景気は上向いているので、その分の増収も見込むことが出来る。こう考えると、一般の物価高に対する不満に対して、政府がかつてのように物価上昇を「0」か「マイナス」にする動機づけは少ない。
インフレ時の一般的な経済政策は、金利を引き上げること、財政を緊縮することなどだが、日本政府の方針はやや異なるようだ。つまり、物価高対策が必要とは言いながら、3%程度のインフレのほうが政府にとって都合が良く、引き下げる気はあまりないと考えられる。もちろん、今回のインフレは原因が円安にあり、需要拡大によるものではないので、緊縮財政は不適切だろう。しかし、円安に対しての金利の引き上げは非常に有効なので、物価高対策としては第一に行うべきだが、前述の理由によって、政府は金利の引き上げを好まないようだ。金利を引き上げると一般企業は借り入れがあれば負担が増すので、産業界は賛成しない。また、政府も金利を引き上げた結果として円高になると、インフレが収まるので、1129兆円の債務の割引がなくなり、税収の増加が見込めなくなる。さらには、金利の上昇によって国債の利払いも増える。
近年の政治は、問題が生じると、根本対策よりも、補助金等を中心とした財政対策を「緊急対策」の名目で打つことが、人気を上げる方法と考えている。金利を引き上げてインフレを収めようとはせず、インフレは放置して、国民に各種の補助金(お米券、電気ガス代の補助など)をばら撒き、支持を得ようとするポピュリズム的な政策になっている。
政党は支持率を気にして、与野党ともに中長期的な政策は敬遠され、短期的な分かりやすい政策をとる傾向になっている。これは、国会議員の任期は衆議院4年、参議院6年だが、最近30年間の平均で国政選挙は1年から1.5年の頻度で行われることも原因となっているかもしれない。政府が目の前の対策に追われ、長期的な視点を失っているように見えるのは、このような事情もある。マスメディアはもっとこの矛盾を追求しなければならない。







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