

7月に行われた参議院選挙で、移民に反対寄りの政党が台頭したのを契機に移民問題が関心を集めている。しかし、移民政策をめぐる議論は感情論と誤解に満ちており、とりわけ反対派によく見られる2つの主張がある。1つは「日本人が子育てできる環境を優先して作るべき」もう1つは「ヨーロッパの移民政策は失敗している」である。本投稿ではこの2つの主張のどこに誤解があるのかを冷静に検証し、最後に感情ではなく国益の視点から考える重要性を説いていく。
まず前者の主張は決して間違ってはいない。実際に子育て支援や社会保障は重要なのは言うまでもない。しかし、これは少子化対策と移民政策という異なる課題を混同している。少子化は30年以上続く構造的問題であり、出生率が一気に改善する見込みは極めて低い。仮に支援や社会保障が充実して出生率が上昇したとしても、その間も労働力・介護・インフラ維持などの人手不足は進行する。そのような環境下では子育てがしやすいと言えるのかという疑問が生じる。また、子育て環境を充実させるための財源確保も必要になるので国民に新たな負担を求めることにもなる。結果として生活費を圧迫され、子供を持つことに慎重になってしまい、かえって少子化を加速させるという恐れがある。したがって、日本人が増えるのを待つというのは国を持たせないという選択に等しい。現実的には「子育て支援」と「移民政策」は二者択一ではなく並行して進めるべき政策である。
次に後者の主張は歴史的背景を考慮する必要がある。2000年代に、アフガニスタン・イラク・シリアなどの国々で戦争や内戦が勃発した。欧州が受け入れた移民の多くは、戦地から避難してきた戦争難民なのである。難民の突発的な大量流入に対し、制度設計や社会統合政策が未整備であったため、その結果、治安悪化・社会不安・極右台頭を引き起こした。つまり、欧州の失敗は「移民が来たから」ではなく、「受け入れ体制が不十分だったから」起きたことである。一方で、日本は計画的な経済移民政策を採用しているので、欧州の事例を根拠に挙げるのは適切ではない。日本はまだ移民政策を本格導入しておらず、制度を整える時間もある。他国の失敗を教訓とすれば、日本は同じ過ちを回避できる可能性がある。
実際、移民受け入れに成功した国や地域も存在する。例えばカナダは代表例であり、「ポイント制」と呼ばれる制度により、年齢・語学力・学歴・職業スキルなどを点数化し、社会に貢献し得る移民を選定して受け入れている。また、定住支援や家族帯同、語学教育の制度も整っており、移民が社会の一員として根付く仕組みが政策として明確に組まれている。もちろん日本とカナダでは前提条件は異なるが、制度設計の参考になり得るのではないだろうか。日本でも「移民政策はとっていない」という建前を保ちながら、現実には技能実習生や留学生アルバイトといった形で、すでに多数の外国人労働者が日本社会を支えている。その制度設計の不備、たとえば技能実習制度に見られる人権侵害、過度な低賃金、移動や転職の自由の制限などが外国人にとっても日本社会にとっても不安定要素となっている。こうした制度設計を整えるのと並行して、国民への丁寧な説明を行うことが重要である。
私は「日本人が大切」「日本を守りたい」という感情を否定しているのではない。むしろ、その想いがあるからこそ、現実に目を向けて、社会の安定と繁栄を見据えた冷静な選択を模索する責任がある。移民政策はそのための1つの選択肢であるが、現実に即した人口動態・社会保障・経済構造の分析から制度設計すれば国益にも繋がり得る。真に愛国的な態度とは、耳障りのよい言葉に安易に飛びつかず、困難な選択をも引き受けて未来の国益を見据える姿勢に他ならない。







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