

近年、西欧諸国や日本において共通して観察される政治的傾向の一つが、右傾化の進行である。日本の政党では、自民党をはじめ、参政党、日本維新の会、国民民主党など、すべて真ん中より右に位置して、公明党がむしろ左寄りの政党かと思われるようになっている。従来、福祉国家の理念に基づき、低所得層や労働者、障害者など社会的弱者の権利を擁護してきた中道左派・社会民主主義勢力(現在の日本においては、立憲民主党、共産党、社民党など)は、近年著しく影響力が低下している。この現象は単なる政党勢力の変化にとどまらず、社会構造そのものの変化を映し出しているといえる。その要因を考えてみよう。
第一に、各国共通した現象として、製造業が産業の中核を占め、「労働者階級」が社会の中心的地位を占めていた時代には、労働運動や組合を基盤とする左派勢力は、明確な支持基盤を持っていた。しかし、非正規雇用の増加、製造業からサービス業への転換などは、「労働者階級」を弱め、組織的な活動を困難にした。そして労働者は代替となるべき方法を見つけることが出来なかった。その結果、左派政党は、かつての製造業労働者の声、現在ではサービス業労働者、非正規雇用者などの声を吸い上げる力を失った。
第二に、左派勢力自体の「中流化」も見逃せない。かつての社会党・共産党が掲げていた理念は、しばしば中間層の価値観へと変質した。都市的なリベラリズムの特徴は、多様性、ジェンダー、環境、人権といったテーマ(DEI)が重視される一方で、低所得層や障害者の生活現場に根ざした政策提言は、あまり全面に出てこなかった。こうして、かつて左派の支持基盤であった労働者、低所得者、障害者の人達が「取り残された」と感じ、政治的不信や無関心、あるいは右派ポピュリズムへの転向を招く要因となった。これも先進国共通の現象だ。
第三に、右派勢力が「弱者救済」を名目とした施策を掲げ始めた点も重要である。しかし、それらの多くは社会的権利の保障というよりも、「国家による施し」の形を取る。つまり、弱者を自律的な対象としてではなく、「保護の対象」として扱う傾向が強い。施しの救済を行う場合、必要な人達に必要な援助が届きにくい。この「施しの政治」は、一見すると寛容の表れに見えるが、実際には支配的な秩序を強化して、弱者の声を政治の場から遠ざける作用を持つ。
結局のところ、このような状況が生まれる背景には、「声の不在」という問題がある。社会的弱者の現実が明らかにされ、それらの人からの直接的な要求が、政治的代表によって直接反映されないのである。本来、権利の擁護は上からの恩恵ではなく、当事者からの要求と対話によって形成されるべきものである。しかし、現代の政治空間では、その「要求を発する場」が著しく縮小している。
したがって、今求められているのは、かつての階級闘争の復活ではなく、「声を持たない人々の声をどのようにして再び政治に接続するか」という新しい課題への取り組みである。福祉や人権が「施し」ではなく「固有の権利」として認識されるためには、政治の現場における当事者参加の仕組みを再生させる必要がある。そして政党は、戦争反対、原発阻止、地球温暖化阻止などの大きな目標も大切であるが、それらと同様に弱者の声を反映した活動が必要となる。例えば、精神病院に入院している精神障害者の声、老人ホームへ入居している高齢者がどのように生きたいかを訴える声、日本の作業場で働いている外国人労働者の声などだ。それらの声は時として大衆の意向と背反する場合もあるが、誰かがそれらの声を代弁しないといけない。
弱者の声を政治に反映させることは、単に福祉政策の改善ではなく、民主主義の原点を問うものである。民主主義は民主的な選挙制度とともに、「誰の声が届くのか」という問いに対する不断の実践によって成り立つ。上からの施しではなく、下からの言葉と行動によって制度を変える、政治家はこの方向に舵を切ることこそ、社会の成熟を示す事ができるのだ。







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