【橋本財団事務局通信】教室でもプールでも――岡山県唯一の車イス教員がつなぐ共生の輪

第2子出産から数カ月後、突然歩けなくなった。原因は脊髄腫瘍だった。

倉敷市在住の長尾優子さんは、2022年に発症した病気によって胸から下がまひし、現在は車イスで生活している。それまでサッカーやバスケットボールを楽しみ、フルマラソンを何度も完走するほどスポーツ大好きだった長尾さん。運動はあきらめなければならないと思っていた。



マラソンに参加している長尾さん スポーツを通して多くの仲間ができた


しかし昨年、車イスでも親子でプールに入りたいという思いから、ある企画に応募。見事に選ばれ、娘と一緒にプールに入る事が出来た。その経験が大きな転機となり、「だれもがプールや外出を楽しめる場をつくりたい」と『まなてぃの輪 岡山バリアフリープールプロジェクト』を立ち上げた。

「環境が整い介助してくれる方がいるとプールに入ることができます。学齢時には、学校でプールに入る機会があったり、親の介助でプールに行ったりすることも可能です。しかし、大人になると親の介助が難しくなったり、環境の整ったプール施設を探すのが手間になったり・・・その他にも水着を持っていなかったり、同性介助が出来なかったりで、好きだったプールに入ることを諦めている方が多いのです。」と長尾さん。

今年3月には初めて「バリアフリープールDAY」を開催。普段は施設で暮らし、30年ぶりにプールに入るという参加者もいた。発語が無く意思疎通が難しい参加者が、後日プールの写真を指差して楽しそうにしていたというエピソードが印象的だった。


初開催の様子 専門家のもと、久しぶりのプールを楽しんだ


そして、もともと特別支援学校の教員として働いていた長尾さんは、今年4月から職場へ復帰。岡山県で唯一の車イス教員として、理科や社会、総合の授業を担当している。「障害があるからこそ教えられることもあります。たとえば、補助金や社会保障の話です。これらは“知らないと使えない、自分から動かないと得る事が出来ない”情報です。私自身の経験をもとに話すことで、生徒にも“生きる上で必要なこと”を学んでもらえたらと思っています。」

一方で、課題もある。避難訓練では、職員室が2階にあるため実際に移動する訓練ができず、「1階で授業をしていた」という想定で参加したという。通勤の学校門の開け閉めなど、周りに助けてもらうことも少なくない。それでも、「一人でできることを一つずつ増やしていきたい」と前を向く。



立位式車椅子に乗って授業をする長尾さん


長尾さんが企画する次回の「バリアフリープールDAY」は、11月16日(日)に岡山県和気町で開催予定だ。

「車イスになってから、たくさんの人と出会い、世界が広がりました。このイベントが、外に出るきっかけや、人とつながる場になればうれしいです」と語るその表情は、穏やかながら心強かった。

公益財団法人橋本財団事務局通信
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