「社会的孤立」と向き合う――気づきとこれから

新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年。それからの数年は「社会的孤立」が際立って注目されるようになった。自身も、外出自粛や飲食店の制限、家族以外の人との接触の減少によって、「社会から切り離されているのではないか」と感じた瞬間が多々あった。当然、孤立の要因はコロナだけではなく、単身世帯の増加、都市部への人口集中、退職や失業による経済的困窮など、複合的背景が関わっている。ここで指す「社会的孤立」とは、「物理的に一人でいるかどうかに関わらず、社会とのつながりが断たれてしまっている状態」と定義でき、多くの人と一緒にいても心理的に孤独を感じたり、社会的な役割を失って疎外感を感じたりする状態をも含んでいる。こうした問題は、現在進行形で現代社会が直面している課題の一つでもある。少子高齢化や都市への人口集中、そして共同体意識の薄れとともに、社会的孤立は以前にも増して実感されるようになったはずだ。すると、この問題は誰にとっても身近なものだと言える。

社会的孤立が長期化すると、個人の心身に影響を及ぼす。慶応義塾大学の研究によると、社会的孤立の状態に置かれたマウスは、そうでないマウスに比べて心筋梗塞やメタボリックシンドロームを引き起こす可能性が高いことが示された。さらに、中国の復旦大学、イギリスのケンブリッジ大学とウォーリック大学が共同で行った研究では、社会的孤立が認知症の発症を早期化させたり、重症化させたりする要因になると報告された。これは精神面でも同様で、年齢を問わずして、孤立状態はうつ病を引き起こしやすい。さらには、孤独死の問題も挙げられるだろう。日本は世界有数の長寿国でありながら、身近な人が誰にも気づかれずに亡くなるという現実は、社会のつながりの脆弱性を改めて突き付けてくる。

さらには、孤立は個人の健康にとどまらず、地域社会にも影響を及ぼす。災害時においては、住民同士の助け合いが復興の要であった。しかし、現代の都市部では隣人の顔すら知らないという状況が珍しくない。当然、社会的紐帯(社会の中での人と人とのつながりや結びつき)が強ければよいというわけではなく、過去を賛美したいわけでもない。とはいえ、一度失われた地域のつながりを再生することの難しさを思うと、「適度なつながり」をどう築くかは大きな課題だと考えられる。

このような状況に対して、政府は孤独・孤立対策のために専門の担当室を設置し、若者から高齢者までを対象とした包括的支援を進めている。特に、コロナの感染拡大による外出自粛期間中には、多くの人が無自覚のうちに社会的孤立に陥っていたと考えられる。それは、社会的孤立は必ずしも当人が自覚しているとは限らず、自覚していた場合にも相談をしない/できないケースが少なくないためである。すると、事態は深刻になっていき、精神的健康が脅かされるリスクが高まってしまう。当時、ある種の虚しさを感じていた人は自分だけではないのではないか。自粛生活を送っていた当時を振り返ると、「自分が孤立している」と自覚せずとも、なんとなく気持ちが沈む、やる気が出ない、会話が減る──そうした孤立の兆しを理解するのは難しかった。


ここで改めて考えたいのは、「つながり」と「自立」の関係である。自立はしばしば「他者に頼らないこと」と思われがちだが、実際には人は他者との関係の中で支えられ、少しずつ自分の足で立つ力を育む。自立とは孤立の果てに得られるものではなく、「つながりの中でゆっくり育まれる」ものなのだ。

そして、いったん自立したように見える人であっても、それをより深めていくためには他者との結びつきが欠かせない。真の自立とは、他者との関係を断ち切る事ではなく、「自ら築き上げた自立を、つながりの中で育み続ける」ことにほかならない。

社会的孤立を乗り越えるために必要なのは、まさにそのような関係の再構築である。人は誰しも孤立の可能性を抱えながらも、他者との関わりを通じて再び歩みを取り戻す。支え、支えられる中にこそ、人が生きる力が息づくのではないだろうか。

だからこそ、子どもから高齢者まで、誰もが安心できる居場所を作っていくことが大切である。地域社会における交流機会を増やし、オンラインでのつながりを活用しながら、多様なアプローチで社会的孤立を防ぐための取り組みを進めていく必要がある。

横浜市立大学小林 天音
大学に通いながら、フリーランスとして翻訳やライター業などに携わっている。
主な学術的関心は哲学・心理学・社会学。
大学に通いながら、フリーランスとして翻訳やライター業などに携わっている。
主な学術的関心は哲学・心理学・社会学。
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