

世の中で起こる出来事の原因について考えてみましょう。
都合の悪い出来事であれば、原因が分かればそれを取り除ける可能性があります。逆に、都合の良い出来事なら、その原因を理解することで、より多くの人が活動できるかもしれません。ところが実際には、出来事が生じても原因が明確に分からないことが少なくありません。むしろ社会問題となる事柄の多くは、原因が不明確であるがゆえに、問題として解決されず残っているとも言えます。つまり、私たちが直面する困難の多くは、原因がはっきりしないことに起因しているのです。
こうした背景から、AIを活用してビッグデータを解析し、統計処理によって原因を探ろうとする試みが盛んに行われています。高度な科学研究から企業の営業データの分析に至るまで、統計を駆使して現状を改善しようとするのは、その背後に潜む「原因」を明らかにしたいという強い動機によるものでしょう。
データを比較して互いの関係性を探ることを「相関性を調べる」と言います。これは、ある変数が増加すると別の変数も増加する、あるいは一方が減少すると他方が増加する、といった関係を明らかにする作業です。ある一群のデータと、もう一群のデータとを突き合わせ、それらの間に「相関性」があるかどうかを見て、「相関性」があれば、2つの群の間に「因果関係」(どちらかが原因でどちらかが結果の関係)が成り立つ可能性があると見るのです。例えば、タバコを吸う人の一群とタバコを吸わない人の一群とを取り上げ、それぞれの肺がんの発生率を見て、タバコを吸う人のほうが、吸わない人よりも肺がんに罹る率が高ければ、タバコは肺がんの原因の可能性がある。このように推理するのが、「相関性」を基にした「因果関係」の推論です。
それぞれに「相関性」があっても、一つが他の原因になっているかどうかは直ぐには分かりません。タバコを吸う人に肺がんが多くても、タバコを吸う人の多くが酒を多量に飲んでいて、実は、酒が肺がんの原因であると言えるかもしれないのです。統計的にのみデータを比較しても(AIが得意な分野)、一つのものが原因となっているどうかは分かりません。つまり、「相関性」は必ずしも相互の「因果関係」を証明するとは限らないのです。例えば、鶏が鳴くと夜が明ける(相関性がある)が、鶏が鳴かなかったからと言って夜が明けないわけではなく、また、気圧計の針が振れると天気が悪くなる(相関性がある)が、気圧計の針を振れないように固定しても天気が悪くならないわけではありません。このようにデータの相関性のみを見てある現象の原因を推定する方法は、科学の場でも仕事の場でも大流行ですが、それが正しいとは限らないのです。
では、「相関性」のある現象が、「因果性」を示しているとは、どのようにすれば証明できるのか? 今起こっている現象だけから因果関係を証明することが難しい場合は、行動することです。現象をただ見るのではなく、その現象に介入して、その後の変化によって、原因であるかどうかを見定めるのです。この方法は、企業活動では、PDCA(Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4段階を繰り返す)として実行されています。改善しようとする場合に、問題となっていることの原因を把握し、改善計画を立て(Plan)、実行する(Do)。その結果が良くなれば、そのまま行動を続けるが、改善できなければ(Check)やり方を改めて再び行動する(Action)のです。ただし、企業活動でこのPDCAが本当に実行されているかどうか疑問です。問題は、Check(評価)の過程にあります。多くの場合、結果が最初に想定した状態とは、異なる場合が多く、最初のPlan(計画)の修正が求められるのですが、そのように実行している場合は少なく、漫然と同じような方法を実行している場合が多いのです。
科学的な場では、因果関係の立証はより厳格となります。その場合、大きな力を発揮する方法が、RCT(ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial))です。この場合は、因果推論よりも更に踏み込んで、介入を行います。対象としているグループを無作為に2つに分け、異なる方法を2つのグループに行い、その結果差異を見るのです。この場合、グループ分けを対象者にわからないように行うことや、試験を行っているときにもあえて区別を明かさないようにすること(二重盲検法)が必要です。介入を行うことによって、統計的に現象を観察するよりも遥かに多くの原因を見つけることができるのです。
相関性があるものが、果たして因果性、つまり、なにかが起こる原因となっているかどうかを確かめるには、もうひとつ、それらの間に科学的根拠があることを証明する方法があります。かつて、船乗りたちがかかる、恐ろしい「壊血病」に対して、柑橘類がその予防をすることがわかりました。しかし、なぜ柑橘類が「壊血病」を予防するのか、その科学的根拠は不明のままでした。結果的にそれ以降、再び「壊血病」が蔓延してきたのですが、その理由は、みかんなどの果物の代わりに、それに近い「ライムジュース」を積み込んだことによるものです。「壊血病」の原因は今では、ビタミンCの不足にあるが、ライムジュースではビタミンCは補えない。結局解決したのは、壊血病の原因がビタミンC不足であることが分かった後なのです。
このように、見つけた因果関係が、科学的理由を伴った媒介によって行われていることがはっきりすると、さらに強固な因果関係を確立することができるのです。因果関係を見つけるためには、観察→介入→媒介の証明の過程が必要となります。
参照文献:ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー著『因果推論の科学』







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