

「高福祉・高負担は経済成長のブレーキになる」――そんな“常識”を見事に覆している地域が北欧である。世界価値観調査(WVS、World Values Survey)は、1981年、ロナルド・イングルハートらが始めて以来、5️年間隔で世界100以上の国と地域において、1カ国あたり千数百人、世界で10万人足らずの人に同じ質問を行っている。内容は、幸福について、環境について、労働状況について、戦争・平和についてなど、経済や政治以外にも調査対象の国や地域の「価値観」ついて質問を行い集計している。この調査を主催している、ロナルド・イングルハートによると、人々の価値観の変化の中で注目すべきは、宗教の凋落と、宗教に変わる価値として、科学やコミュニティの価値が高まっている国や地域があることだ。北欧は宗教に代わる価値観を持つ市民社会を作り、経済的にも成功し、幸福度を高めている代表格と言える。
北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド)とオランダは、社会保障が発達していることは多くの人が認めるところではあるが、その反面、経済成長が今一歩であるとの古い批判もある。そうではない。(図1)は、北欧諸国とオランダ、アメリカ、日本の一人当たりGDPの40年にわたる増加の推移を示したのだ。
(図1)
筆者作成
40年間の推移で目立つのは、驚くべきことに北欧諸国、特にノルウェーはアメリカをも超えて、一人当たりGDPの成長率が著しい。その他の国も、日本で想像する以上に順調な上昇を示していて、日本とは経済力で大きな開きが表れている。40年前は、同じような水準から出発したのにもかかわらず、現在、北欧諸国と日本では大きな差がついている。特に、2000年代に入り北欧諸国と日本との差が現れ、2010年代には、日本の一人あたりGDPの伸びが鈍化したことが明らかになっている。人口ボーナス(人口増加)の局面では成功した日本が、人口オーナス(人口減少)になると成長率が低下したことがよく分かる。つまり、人口増加局面での政策が、人口減少の場面では破綻したことを意味している。
(図2)は現在の一人当たりGDPの国別順位である。4位のノルウェーから19位のフィンランドまで、北欧諸国は比較的上位に位置する。ちなみに日本は32位である。高福祉高負担の国々が、国民負担の低い日本より経済的に豊かになっている。従来の常識からは、不思議な現象だ。
(図2)一人当たりのGDP
次の指標(図3)は、国民負担率である。税と社会保障の負担を国民所得で割ったものである。負担が多いと生活が苦しく、経済がうまく回らないと考えられていたが、北欧諸国では国民負担率は概ね高い。いわゆる高負担である。
(図3)国民負担率
国民負担率(税と社会保障の負担を国民所得で割ったもの)は、デンマークは3位で66%、ノルウェーは9位で57%、オランダは17位で52%、ちなみに日本は22位で48%である。北欧諸国はいずれも日本より国民負担率が高いことが示されている。
ここで明快な答えが出る。大きな政府が悪いのではなく、「その大きな財政を何に使っているのか」が問題なのである。北欧諸国やオランダは、高い税を徴収する代わりに、教育、医療、老後の保障といった生活基盤に再投資している。だからこそ、国民も納得し、制度が持続しているのである。一方、日本はどうか。日本政府も北欧と同じように、徴収した税は、医療、教育、老後の保障につかっているが、異なるのは、不都合な現実を率直に語らず、選挙で票になるような、耳ざわりのいい政策だけを繰り返してきた。その結果、政治に対する不信が根強く残り、財政や社会保障の持続可能性について本質的な議論が行われてこなかった。
つまり、北欧に示されるように、国民負担率が高いこと、つまり大きな政府が経済成長を妨げているのではない。政府は国民に説明責任を果たし、時には不人気な事実も正直に伝えなければならない。社会保障は天から降ってくるものではなく、私たち自身が積み上げ、維持していく「共通の資産」である。つまり、国民に対して高負担であるが、貧困や老後の生活を保障するのか、あるいは、負担率は低く、自分で生活手段を見つけなければならないのか、どちらが正解とも言えないが、少なくても政府の方針は国民の考え方と一致しなければならない。そのためには、常に議論を行う必要があるし、政府への信頼も大切だ。社会保障の負担を少なくすると、給付も減額されることを、政府は国民にもっと説明しなければならない。社会保障費は天から降ってくるものでなく、自分たちでお金を貯め、作り上げなければならないのだ。







奥 侑樹の記事を見る
黒乃 流星の記事を見る
宮田 宗知の記事を見る
事務局通信の記事を見る
岩下 康子の記事を見る
二村 昌子の記事を見る
Opinionsエッセイの記事を見る
東沖 和季の記事を見る
下田 伸一の記事を見る
宇梶 正の記事を見る
大谷 航介の記事を見る
東 大史の記事を見る
池松 俊哉の記事を見る
研究助成 成果報告の記事を見る
小林 天音の記事を見る
秋谷 進の記事を見る
坂本 誠の記事を見る
Auroraの記事を見る
竹村 仁量の記事を見る
長谷井 嬢の記事を見る
Karki Shyam Kumar (カルキ シャム クマル)の記事を見る
小林 智子の記事を見る
Opinions編集部の記事を見る
渡口 将生の記事を見る
ゆきの記事を見る
馬場 拓郎の記事を見る
ジョワキンの記事を見る
Andi Holik Ramdani(アンディ ホリック ラムダニ)の記事を見る
Waode Hanifah Istiqomah(ワオデ ハニファー イスティコマー)の記事を見る
岡﨑 広樹の記事を見る
カーン エムディ マムンの記事を見る
板垣 岳人の記事を見る
蘇 暁辰(Xiaochen Su)の記事を見る
斉藤 善久の記事を見る
阿部プッシェル 薫の記事を見る
黒部 麻子の記事を見る
田尻 潤子の記事を見る
シャイカ・サレム・アル・ダヘリの記事を見る
散木洞人の記事を見る
パク ミンジョンの記事を見る
澤田まりあ、山形萌花、山領珊南の記事を見る
藤田 定司の記事を見る
橘 里香サニヤの記事を見る
坂入 悦子の記事を見る
山下裕司の記事を見る
Niklas Holzapfel ホルツ アッペル ニクラスの記事を見る
Emre・Ekici エムレ・エキジの記事を見る
岡山県国際団体協議会の記事を見る
東條 光彦の記事を見る
田村 和夫の記事を見る
相川 真穂の記事を見る
松村 道郎の記事を見る
加藤 侑子の記事を見る
竹島 潤の記事を見る
五十嵐 直敬の記事を見る
橋本俊明・秋吉湖音の記事を見る
菊池 洋勝の記事を見る
江崎 康弘の記事を見る
秋吉 湖音の記事を見る
足立 伸也の記事を見る
安留 義孝の記事を見る
田村 拓の記事を見る
湯浅 典子の記事を見る
山下 誠矢の記事を見る
池尻 達紀の記事を見る
堂野 博之の記事を見る
金 明中の記事を見る
畑山 博の記事を見る
妹尾 昌俊の記事を見る
中元 啓太郎の記事を見る
井上 登紀子の記事を見る
松田 郁乃の記事を見る
アイシェ・ウルグン・ソゼン Ayse Ilgin Sozenの記事を見る
久川 春菜の記事を見る
森分 志学の記事を見る
三村 喜久雄の記事を見る
黒木 洋一郎の記事を見る
河津 泉の記事を見る
林 直樹の記事を見る
安藤希代子の記事を見る
佐野俊二の記事を見る
江田 加代子の記事を見る
阪井 ひとみ・永松千恵 の記事を見る
上野 千鶴子 の記事を見る
鷲見 学の記事を見る
藤原(旧姓:川上)智貴の記事を見る
正高信男の記事を見る
大坂巌の記事を見る
上田 諭の記事を見る
宮村孝博の記事を見る
松本芳也・淳子夫妻の記事を見る
中山 遼の記事を見る
多田羅竜平の記事を見る
多田伸志の記事を見る
中川和子の記事を見る
小田 陽彦の記事を見る
岩垣博己・堀井城一朗・矢野 平の記事を見る
田中 共子の記事を見る
石田篤史の記事を見る
松山幸弘の記事を見る
舟橋 弘晃の記事を見る
浅野 直の記事を見る
鍵本忠尚の記事を見る
北中淳子の記事を見る
片山英樹の記事を見る
松岡克朗の記事を見る
青木康嘉の記事を見る
岩垣博己・長谷川利路・中島正勝の記事を見る
水野文一郎の記事を見る
石原 達也の記事を見る
野村泰介の記事を見る
神林 龍の記事を見る
橋本 健二の記事を見る
林 伸旨の記事を見る
渡辺嗣郎(わたなべ しろう)の記事を見る
横井 篤文の記事を見る
ドクターXの記事を見る
藤井裕也の記事を見る
桜井 なおみの記事を見る
菅波 茂の記事を見る
五島 朋幸の記事を見る
髙田 浩一の記事を見る
かえる ちからの記事を見る
慎 泰俊の記事を見る
三好 祐也の記事を見る
板野 聡の記事を見る
目黒 道生の記事を見る
足立 誠司の記事を見る
池井戸 高志の記事を見る
池田 出水の記事を見る
松岡 順治の記事を見る
田中 紀章の記事を見る
齋藤 信也の記事を見る
橋本 俊明の記事を見る