

中世以前のような階層社会では、民衆は誰かの支配を受け、誰かの命令によって動いていた。民衆は自分の毎日の生活のみに気を配り、リアリティの乏しい概念の世界や、まして国家などのことは何ら考える必要がなかった。考えてもどうにもならないか、あるいは、考えた人は「反乱者」として処罰されたのだ。しかし、18世紀以降、フランス革命やアメリカの独立戦争を通じて、民衆も力を持って良いし、民衆の力で世界が変わる可能性が生まれた。
しかし、民衆が世界を変えるためには、知識が必要だ。まずは、一部のアジテーター(*1)に惑わされず、世界の仕組みを理解しないといけない。そうしないと、かえって以前よりもまずい世界が出現することも経験した。フランス革命は恐怖政治を生んだし、19世紀の民衆革命は、多くが自分たちの幸福を実現するまでには至らなかった。20世紀にはナチスドイツが民主主義のもとに「合法的」に政権を取り、民衆に支持されながら、究極の「悪」を実行した。ナチスは武力によって政権を奪取したのではなく、選挙によって政権を獲得した、つまり民衆が支持したために政権についたのである。このように、民衆の力による政治、つまり民主主義政治が行われるようになったが、民主主義についての教育がなければ、政治の場では健全な民主主義は育っていかない。
民主主義社会では、国民一人ひとりが等しく国家に対して責任を持つ必要がある。もう少し簡単には、民主主義国家は国民一人ひとりが国家の成立するための単位であり、その前提で成り立っているので、構成員である国民が、他の国民一人一人に対して責任を持つ必要がある。しかし、一時的な利害に左右され、問題のある候補者を選ぶ傾向に対して、その方法、例えば選挙のやり方、SNSの影響などの手段に責任を負わせるような報道が多い。これはつまり、選んだ国民には責任がなく、手段を用いた人達が悪いのだ、つまり、SNSやフェイクニュースによって問題が大きい候補者に投票するのは、SNSやフェイクニュースを流した側が悪く、それを信じた国民はいわば被害者であるとの風潮がある。その結果、どのようにすれば不公正な手段を防ぐかに焦点があたっている。しかし、問題は、間違った報道をしたり、一方的な選択を促したりする側ではなく、手段に惑わされて、ポピュリスト候補に投票した有権者にあることを認識すべきである。
従って、各国で行われている直接投票の仕組みは考え直さなければならない。つまり、大統領選挙や首長選挙の仕組みはポピュリズムに流れやすく、民主主義に対しての教育が十分でない国や地域については、不適当であり、その場合には間接選挙をまず選択すべきである。間接選挙は、国民が選んだ代議士などが、さらに首相を選ぶ仕組みである。議員を選ぶためには、比例代表制度を選択し、連立政権での多党の合議制を持って政治を行うべきである。たとえ、決定に時間がかかることがあっても、より正しい決定を行うためには、この方式が必要である。
日本では、地方の市長や知事などの首長選挙を除き、国家レベルでは間接代表制を取っているので、急激な問題は生じないが、それでも、じわじわとポピュリズムの影響は政治に現れている。早めに、本当の民主主義教育を行わないと、いつまでも問題を国家や政治家のせいにして、民衆の責任を回避する風潮が続く可能性がある。当然ながらマスメディアの責任も重大である。
(*1)政治的意図をもって大衆を指揮する人、特定の世論を形成するために動く人







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