

ーーニセコバブルは崩壊するか
2025年5月。
『「ニセコバブル」崩壊の前兆か』
そんな見出しで新聞各紙や多くのメディアが取り上げた象徴的な出来事があった。世界的リゾートに成長したニセコの中心地の一つであるニセコ町に、建設が途中で止まり、シートで覆われた建物がある。中国系企業の日本現地法人が用地を取得し、開発を進めていた案件でニセコ最大級の宿泊施設になる予定だった。しかし、工事を請け負った道内の建設会社への支払いが滞り、建設が3割程度進んだところで工事が中断したのだ。
こうした事象は実は以前から数例あったのだが、今回大きく取り上げられた背景には理由があるのではないかと思っている。それは途中まで建設が進み建物の外観をシートが覆う様がいかにも「開発途中で頓挫した」というイメージを象徴し、メディアが「ニセコ崩壊」という論調として面白く取り上げるのに好都合なためだろうという点だ。この事例以外の中断の多くは開発予定地の造成までを完了しているがウワモノの着工はしていない、という違いがあるだけなのだ。造成して更地のまま塩漬けで「一旦中断」の手続きをしている開発件数は意外と多い。だがそれではメディア側にとって画的に地味なのだろうか。
逆の見方で捉えると建設の目途が立たないと着工できない、という事情があるのだ。着工から完成までには資金面や請け負う建設会社との調整、高騰する人件費や資材の調達不調など様々なリスクが発生する。
故に「あそこまで建てて途中で投げ出すはずがない」「次なる体制に対する様々な引継ぎ交渉が水面下で行われているはずだ」などの憶測が業界内で飛び交っているのも事実のようだ。債務者側はすでに区分所有で購入しているオーナーたちに対する責任もある。今回は債権者側である建設会社が破産申し立ての手続きを踏んだものであるが、それは膠着した現状から次のステップに移るための手順の一つなのではないか、とみる向きもある。
言うまでもないが、投資家も開発事業者も建設会社も遊びや話題づくりでやっている訳ではなく契約し事業として本気でやっているのだ。
だが今回の開発中断事例がこのまま放置されて廃墟と化すか、あるいは新たな体制に引き継がれて完成まで漕ぎ着けるかどうかは、このニセコエリアの外資系リゾート開発史における中断回避の成否を分ける試金石となるだろう。
ーーSDGs「持続可能な開発目標」とは何か
私の住むニセコ町は国から「SDGs未来都市」として選定されているが、本当の意味でのSDGsの標語が今、この町の地域づくりのあり方に突き付けられている気がする。この町は住民自治のまちとして「住民参加と情報公開」を標榜しており、こうした今回のような事例や未来の地域の目指す姿として開発に対する規制やルール作りを住民主体となって整備している。しかし、やはりそれでも法の壁を感じずにはいられないのである。
景観条例や建築ガイドラインの策定などにより建てようとする建物の高さや色、近隣への光害についての配慮や植栽など表面的な決まり事を定めることはしているが開発行為自体を阻止できる仕組みにはなっていない。現行法では個人・法人の財産権の元に土地の取得や売買などが誰でも可能なのだ。今回も外資が開発しようとする土地を日本現地法人が合法に取得し、住民説明会を開き地域の合意を取り付けて着工を開始しているはずなのであるが、こういうことは起きてしまうのである。
だがもし、ウワモノの建設工事が中断し開発の中止が決定した場合の原状復帰の費用に充てられる預託金や供託金のようなものを自治体や法務局に納めておく制度を作れたらどうだろうか。あるいは開発中止による『原状復帰義務保険』のような保険商品に加入することを義務付けられるなら、無計画な開発をしようとする側への抑止力になるのではないか。要するに「資金ショートして開発がポシャったら更地に戻すお金を先に預けてください」という担保のことだ。
地域として、そこに暮らす住民として、先人たちが切り拓いた郷土の土地を守りたいと思うのは、自然な感情なのだ。一方で、人口が減っていく未来を前に観光振興で地域を持続させていく現実からも、目を逸らすことはできない。
ーー誰のための地域づくりなのか
長い目で見た場合、ニセコ町の住民はかなり国際的になっていくだろうと思われる。ちなみに2025年3月末現在で町内の人口5,161人のうち、外国人は733人。世帯数で見ると全2,896世帯のうち、571戸が外国人世帯となっている。インターナショナルスクールは2校、公立の小中学校でもクラスの約10%はハーフの子たちである。町立ニセコ高校の名称も「ニセコ国際高校」に改名を検討しているところだ。
このような状況から想像するに今後、国籍の内外に関わらずニセコ町で暮らし続けたいと思う住民による地域づくりを、時代に合わせた形で持続可能な目標にしていく事になるのだろう。ニセコ町に暮らし続けたいと思う人ならば、この地域の一番の資源はこの自然環境であることに疑いはないはずである。
適切な開発ルールと環境保護、地域産業と豊かな暮らしを両立させる持続可能な地域づくりについて考えていくことは、この町に暮らし続けようとする住民たちの終わりなき課題なのかもしれない。







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