イエスタ・エスピン・アンデルセンによる、資本主義社会3つのタイプは、保守主義、新自由主義、社会民主主義に分類される。①保守主義は、コーポラティズム(またはコミュニティ主義)でもあり、伝統と社会の連帯を重視する。伝統を重視することは、急な社会制度の変化を望まないことである。②新自由主義は、個人の自立を目指し、個人の自由を尊重し、政府の役割は限定的なものとする。市場を中立公平なものと見なして、資本主義を援護する。メリトクラシー(能力主義社会)は肯定される。③社会民主主義は、個人単位の社会を目指すことは、新自由主義と同じであるが、国家の関与を多く求め、自由よりも平等に力点を置く考え方である。保守的、伝統的な地域での相互扶助よりも、公的な機関(国や自治体)が経済活動でもある程度の規制を行い、福祉活動の主体となり、再分配によって格差を抑え、平等な社会を目指す。
日本における福祉資本主義のあり方は、保守主義と社会民主主義のハイブリッド型とも言える構造を持っている。伝統や社会制度を重視し、急激な改革に慎重な姿勢をとる保守主義。そして、困っている人や弱者に対して国が迅速に対応すべきだと考える社会民主主義。この二つが同時に広く支持されているのが日本社会の特徴である。一方で、新自由主義は小泉政権時代に一時的な脚光を浴びたが、結果として格差が拡大したという評価もあり、企業社会では信仰されているが、広範な支持を得ているとは言い難い。
こうした国民感情が結びつくと、建前では「自立して変化しなければならないのだが」、「変わらずに安心したい」「でも困ったときはすぐ助けてほしい」という矛盾した願望が生まれる。この“いいとこ取り”の感情の集積が、日本におけるポピュリズムの温床となる。つまり、政治が本来果たすべき中長期的な制度設計や負担と給付のバランスよりも、その場限りの人気取り政策が優先されてしまうのである。現状維持の安心と即効性を求める民意は、持続可能性よりも短期的な満足を政治に求めてしまうのだ。では、このような日本的ポピュリズムをどう防ぐことができるのだろうか。マスメディアのポピュリズム追認姿勢の現状から見ると、難しいかもしれないが、あえて考えると次のようになる。
第一に必要なのは、「中長期的な政治ビジョン」の共有である。人口減少、少子高齢化、財政赤字といった構造的課題に対し、10年、20年というスパンでの対応を議論し、国民に示すことが不可欠だ。特に政府による積極的な提示や制度改革の意義を、政治家が語ること、マスメディアがそれを後押しし、市民がそれを理解できる土壌が求められる。第二に、市民の政治リテラシーの向上が重要である。なぜ税金が上がるのか、なぜある補助金が削減されるのか。その背景を理解し、単なる「損得」ではなく「社会全体の持続性」という観点から政策を評価する目を育てなければならない。そのためには、特に学校教育の充実が必須であるし、メディアによるバランスの取れた情報発信も不可欠だ。第三に、感情に流されない懐疑的「問いの文化」を育てることが求められる。「すぐに給付金を配ります」「減税します」といった耳あたりのよい政策に対して、マスメディアは主導して「財源は?」「長期的に何をもたらすのか?」と問いかける習慣を社会全体で持つべきである。
日本的ポピュリズムは、必ずしも悪意から生まれるものではない。むしろ、複雑な社会に対して素朴な安心を求める心から来ている。しかし、それに安易に迎合すれば、将来へのツケを残すばかりか、民主主義そのものが劣化する危険性すらある。だからこそ、冷静な対話と教育によって、ポピュリズムに流されない政治文化を育てていく必要がある。
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