アメリカ第一主義の帰結

過去のアメリカのイメージは、悪漢が金や力にものを言わせて、弱い力のないものを苦しめているときに、どこからともなく現れ、悪事を行っている悪者を退治し、弱くていじめられているものを助け出して、悪者を懲らしめる「スーパーマン」のような存在でした。まさにハリウッド映画の原点もこのようなものでした。世界の人たちはみんな、悪を挫くヒーローやヒロインに拍手を送り、同時にアメリカが好きになったのです。

現実の世界では、民主主義を守り(ときには暴走もあるが)、独裁政治家を懲らしめ(時には加担したが)、1920年から1991年のソ連崩壊までは、共産主義から自由主義諸国を守る、そして、自由貿易を標榜するとともに、それを破る国に対しては制裁を課していました。この過程が必ずしも世界の倫理観に沿ったものではなく、時にはアメリカのわがままによるものであっても、なお、アメリカはハリウッドの西部劇さながらに悪を倒して善を守るヒーローというイメージを持ち、なんとなく好感度が高い存在だったのです。この傾向は2000年代以降、イラク戦争以降怪しくなりましたが、未だに『インディペンデンス・デイ』の戦闘機を操縦してエイリアンに立ち向かう大統領のように、英雄的な存在であり続けています。

しかし、今のトランプ政権はこの様なイメージとかけ離れています。弱い者たち(ウクライナ、デンマーク、パナマなど)に無理難題を押し付け、金をむしり取ろうとしているような印象を受けます。この様なアメリカは、ハリウッド映画や物語に出てくるスーパーヒーローとは似ても似つかない、むしろ物語に出てくる「悪漢―ダースベイダーやジョーカー」のイメージです。おそらく数年のうちにアメリカの評判は大幅に下がり、ハリウッド映画は外国では売れなくなるでしょう。栄光を作るのは難しいですが、反感はすぐに醸成されるのです。

アメリカ第一主義(Make America Great Again -MAGA-)は、過去アメリカが世界に影響を及ぼし、それに対する反感を受けたこと、そして、世界に影響を与えるために膨大な資金を提供したことへの反動と言えるでしょう(アメリカ国内の貧富格差も影響しています)。確かに、一国単位で見ると、世界中のほぼすべての国は、自国第一主義で行動しています。アメリカだけが例外であるとの理屈はありません。しかし、物語ではそうはならないのです。強いヒーローは常に責任を持ち、時には呼ばれてもいないのにお節介にも他人の家に介入し、煙たがられる場合もあるのです。強いものは所詮そのような役割があるのです。ふと振り返って、自分が他の国よりも多くの負担を背負い、一見損な役割を演じていると思っても、強者には、そのような役割が付きまとうのです。トランプ氏がふと気づき、「もう他人のことを考えず、自分中心でやろう。なぜなら自分の国にも割りを食っている人がいるから」との考えに至ることは理解の範囲内ですが、現在の彼の行動はアメリカの評判を大いに傷つけ、修復不能になる可能性があること、そして、その行動で、今まで助けていた多くの人を見放すような、今までのアメリカの行動とはかけ離れた行動であることを自覚する必要があります。

経済的にも、アメリカの大幅な貿易赤字は、黒字国が米国債を買うことによって再びアメリカに還流しています。また、GAFAM(ネット大手の5企業・Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)は、アメリカ企業ですが、世界各国から信じられないような資金を吸い上げて、アメリカに富をもたらしています。確かに、アメリカの中下層の労働者は、これらのあおりで、賃金が下がっていますが、この傾向はアメリカに限らず、世界的な傾向なのです。ヒーローは急に舞台から退くことは出来ません。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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