タンザニアに1年以上住んで感じること③(生活編Part2)

先月はじめて健康診断のためにタンザニアの病院を訪れた。その病院は、24時間対応の民間病院であり、タンザニア人に加え、日本人である私、他にも中国人、欧米系など様々な人が来院していた。これまで健康診断は、日本でのみ受診経験があり、タンザニアの経験は興味深かった。例えば、身長測定は、頭の先を基準にしているため普段より少し高め、体重は靴を履いたまま体重計に乗り、靴の重さに関わらず500g引かれて計測されるため普段より軽めであった。過去の測定よりも少し高い身長、少し軽い体重、特に身長はそう簡単に伸びるものではないので、「いつもと少し違うけどそれで良いの?」と聞いても、「大丈夫大丈夫、数値が出ているからこれが正しいよ」と軽く受け流された。健康診断に必要な検査を終え、その結果を受け取るまでの待合室での時間は長かった。その待合室で、近くにいた人と「長いね」から始まり、来院目的、家族のことなど様々な話が始まるのもタンザニア流と言えるかもしれない。今回は、タンザニアの健康を中心に、医療、保険、呪術などの情報もお届けする。

タンザニア人の健康意識は高まっている。健康を大きく心と体に分けると、間違いなくタンザニア人の心の健康度は日本よりも良好だと思う。残念ながらタンザニアには、関連する統計データはないが、状況を受け入れる文化、何とかなると考える文化がある。皆さんは、映画やミュージカルで『ライオンキング』を見たことがあるだろうか?その中で、「ハクナマタタ」という言葉が使われている。その言葉は、スワヒリ語で「大丈夫だよ、心配ないよ、何とかなるよ」を意味し、「ハクナマタタ」を口癖のように使う人を知っている。他にも、タンザニアでは難しい、悩ましいことが起きた場合にも周りが自分ごととして解決にむけて奔走してくれることもある。血縁の家族はもちろんのこと、同じ部族、友人、学校の同窓生、職場、近隣住民、同じチームを応援する人(特にサッカー)、宗教コミュニティなど多様な場で人々の仲間意識が醸成されている。

一方、体の健康度に関しては、日本に軍配が上がりそうだ。アフリカの多くの国同様、タンザニアでは男女問わずふくよかな人に対する魅力は根強い。他方で、SNSを中心に海外から様々な情報が入り、ダルエスサラームやザンジバルなどの都市部においては、健康を含めて、痩せること、筋肉をつけることへの価値が高まっている。実際に、フィットネスクラブやジムも増えており、ジムを売りにしているホテルやアパートメントもある。

ただし、日々の生活を考えると、運動や筋トレを頑張り、消費が一定以上である人を除き、健康維持は難しそうである。その大きな要因は食事にある。タンザニア人と一緒に食事をするとその大切な時間の分かち合いに価値を置いていることが伝わってくる。また、前回の記事でもお伝えしたように、タンザニアの食事はバラエティ豊かで美味しい。ただその誘惑とうまく付き合わないと私のように体重が7kg増加してしまう(自己管理能力が低いだけではあるが)。私は散歩が好きなので、散歩は週に何回かしているが、それ以外の運動習慣はない。多少食事のバランスを意識はするものの、自分で料理はせず、タンザニア料理を中心に食べている。それらの食事の味付けは基本的に濃い。塩分、油分を中心にこちらで味を足す必要がないほど濃く、主食のご飯やマッシュポテト、ポテトが良く進む。さらに、スイーツ、ケーキ類などの甘い食べ物、コーヒー、紅茶、フルーツジュース、スムージーなど飲み物にも大量の砂糖が使用されることが基本である。年中暖かく、時には暑いタンザニアの気候で生活をしていると、時に甘いものが欲しくなる。その際には、糖分はとても助かるがこれらばかりを食べていると糖尿病になりそうな気がする。肥満や糖尿病をはじめ生活習慣病は近い将来、いや将来ではなく、今から手を打ち始めた方が良いテーマだと思う。

健康に関して、「ラマダン」の存在も伝えておきたい。皆さんはどこかでラマダンを聞いたことないだろうか?ラマダンは、イスラム教徒が30日間、断食をする義務の一つである。今年のラマダンは、3月1日から始まっており、日の出から日没までの期間、飲食を断つ。心身に負荷をかけながら身と心を清らかにするこの習慣、日頃の食事で負担がかかっていると想像できる胃を整えるという点から、健康にも良さそうな気がしていた。しかし、日没後に2回の食事をし、すぐに就寝をするという話を聞いたため、むしろ健康に悪影響の面があるかもしれないとも感じた。知り合いのイスラム教徒からラマダン中は19時と21時に食事をし、22時に就寝すると聞いた。さすがにそれでは食べたものが胃に残った状態で就寝をしていることになり、胃への負担が心配である。また、はじめて知ったのだが、知り合いのキリスト教徒の家族も「ラマダン」を実践しており、こちらは40日間だそうである。その家族の場合、母親のみ実践し、父親、子供は実践をしていない。大人は、信仰に合わせて実践するかどうかを決めることができ、18歳までの子供は多くの場合、我慢をすることが難しいため、実践をしないとのことであった。

タンザニアには、大きく分けると公的、私的の2種類の医療がある。どちらの場合も、日本と同じように規模の異なる総合病院と産婦人科、小児科、歯医者など専門病院がある。公的医療は、薬も含めて基本的に無料である。ただし、多くの場合、公的機関は私的機関と比べて、機材設備の古さ、診察までの時間の長さ、信頼に足る医師・看護師の少なさなどがある。そのため、経済的に余裕がある人は、医療の質がより良い評判のある私的医療を選択する人が多いと聞く。私的病院は、多額のお金を必要とする。例えば、冒頭紹介した私の健康診断は、日本円で2万円以上かかった。この金額は日本でも高い水準だが、タンザニアと日本の経済規模を比べるとタンザニア人の体感的に日本よりも遥かに高額となる。国際通貨基金(※1)によると、タンザニアの国内総生産は、79,605百万米ドルである。最近の為替を基に、1ドル150円で計算すると、タンザニアの国際総生産は、日本円で約12兆円となる。その経済規模は、内閣府によると、日本の広島県と同様である。経済学では、経済は価値を生み出し、その価値は人々に分配され、最終的に支出されるという関係性から、経済規模が多いほど、一般的には分配(収入)も多くなるという前提がある。タンザニアの収入が日本の広島県と同規模に留まる現状において、私的医療の健康診断は限られた人がアクセスできるサービスに留まっていると言える。もちろん人々の医療機関選択は、自身や家族の経済状況だけではなく、医療の目的、心身の深刻さ度合い、アクセスのしやすさなどを含めた総合的な判断になる。

保険は、将来的にその価値を感じる人が増えたらという条件付きではあるが、タンザニアで有望なビジネス機会の一つである。なぜなら、タンザニア人に保険の必要性や重要性が浸透していないため、タンザニアでは人々が加入できる保険が少ないためである。日本ではおなじみの生命保険、医療保険、介護保険、損害保険、自動車保険などほとんどその存在や加入者を聞いたことがない。タンザニア人は、残念な状況が発生してからどうするかを考え始め、どうにか対応する人が多数である気がする。つまり、未確定なものに対して先んじて支払ってそこに備えるよりも、今を生きる、起きた時に対応するという姿勢である。

他方、国としては保険が重要な収入源になる認知はされている。実際、タンザニア人向けではなく、外国人向けの保険として2024年10月1日から開始された国内屈指の観光地ザンジバルへの入島保険がある。これは、海外の観光客にお金を国内に落としてもらおうとする施策で、海外からザンジバルに入島する場合に観光客はザンジバル側が指定する保険への加入義務があるというものである。知り合いのザンジバルの旅行業者に、「保険が必要となり、仕事への影響はあった?」と聞くと、「もっと観光客は減ると考えていたが、今のところそこまでの影響はなく、変わらないよ」という回答が返ってきた。

タンザニアでは、保険に頼らず、祈りにより健康を維持し、また、不健康からの回復を期待する人もおり、呪術はそのひとつとなっている。呪術の定義は、デジタル大辞泉によれば、「神や精霊などの超自然的力や神秘的な力に働きかけ、種々の願望をかなえようとする行為、および信念。まじない・魔法・魔術など」である。日本でも霊媒師、陰陽師、占い師などに頼る、あるいは神社、仏壇、お墓などに向かって願う、また、祈ることはある。科学では説明のつかない方法に頼るという点では、子どもの頃のてるてる坊主や願掛けなども近いだろう。タンザニアでも日常に呪術が存在している。例えば、呪術師は今も存在しており、私はその場に出くわしたことはないが、医者とは違う方法で治療を行うこと、浮気や不倫をされた女性が男性に対して呪いをかけること、悪いことが起きた場合に私は呪われているかもしれないという感覚があることなどを聞く。タンザニアの呪術は、奥が深いテーマで、さらに興味がある人は、小池茅氏の呪術師弟子入り体験話(※3)、和田正平(1972)『タンザニア北部における呪術師の勢力と地縁集団〜口頭伝承を中心に〜』の論文や井上真悠子(2008)『「呪術師のところに行こう」―東アフリカ・ザンジバルの暮らしの中で―』のフィールドノートの一読もお勧めする。それぞれタンザニア呪術の非常に具体的なイメージを得やすい。

最後に、健康という点で、タンザニアの人々は感情、特に嬉しい、楽しい、面白いなどの前向きな感情を表に出し、その場が明るいエネルギーで満たされていることを感じる。心身の身、体に関して彼ら彼女らが健康かと言われると心配な人も多いが(私もその一員になりつつある)、心は晴れやかな人が非常に多い気がする。感情に素直になる、また、多少のことには動じない、それらも含めて人生を楽しむことができれば健康度は増すだろう。次回最終回は、「人々」をテーマに時間、言語、教育、結婚などの情報で締めくくる。

JICA専門家足立 伸也
1987年兵庫生まれ。
立命館アジア太平洋大学卒業。法政大学大学院修了(公共政策学修士)。現在同大学院博士後期課程在籍中。
組織の人材育成、企業の海外展開、新興国の社会課題調査などのコンサルタント、ケアラー(家族介護者)向けの事業開発、カイゼン・アプローチのアフリカ展開戦略策定などを経て、現在はタンザニア在住。『シン・ニホン』アンバサダー。エシカル・コンシェルジュ。
1987年兵庫生まれ。
立命館アジア太平洋大学卒業。法政大学大学院修了(公共政策学修士)。現在同大学院博士後期課程在籍中。
組織の人材育成、企業の海外展開、新興国の社会課題調査などのコンサルタント、ケアラー(家族介護者)向けの事業開発、カイゼン・アプローチのアフリカ展開戦略策定などを経て、現在はタンザニア在住。『シン・ニホン』アンバサダー。エシカル・コンシェルジュ。
  • 社会福祉法人敬友会 理事長、医学博士 橋本 俊明の記事一覧
  • ゲストライターの記事一覧
  • インタビューの記事一覧

Recently Popular最近よく読まれている記事

もっと記事を見る

Writer ライター