『まるで外国 ニセコ人気が止まらない』
『地価上昇率日本一で10年前の14倍に上がった地点も』
『ニセコは行き過ぎた高級化で日本人は相手にされない』
『外国人の外国人による外国人のためのニセコ』
皆さんは「ニセコ」という地名を知っているだろうか。もしかしたら様々なメディア記事や関連書籍などで見聞きしたことがある方も多いだろう。メディアがニセコを取り上げる場合、その多くが冒頭の様なセンセーショナルな見出しを貼りつけ、見る者の関心を惹き付ける訳であるが、その裏側には私たち住民が感じているモヤモヤした思いもあるのだ。今回、この場をお借りして少しでも多くの人にこの地域で起きていることを知ってもらい、この地に暮らしている者として感じている思いを伝えたく筆を執った。
まず「ニセコ」という地名は北海道の先住民族が使っていたアイヌ語からつけられたものであり「切り立った崖」という意味がある。北海道の南西部に位置しており「ニセコエリア」としては複数の自治体にまたがる山岳リゾート地域として広く認識されている。また単一の行政区として「ニセコ町」という自治体もあるのだ。余談だがこのニセコ町は全国1,700余の市町村の中で唯一カタカナだけで構成された町名なのである。
また何といってもこのエリアは道内でも屈指の豪雪地帯である。天の恵みがもたらすパウダースノーの恩恵は世界中から多くのスキーファンを呼び込み、ニセコの勢いを牽引する国際化の大本の資源となっているのだ。特にこの20年間で多くの外資系による開発行為が行われ、投資が投資を呼ぶ循環が今も続いている。この現象の火付け役として挙げられるのがオーストラリア人のクチコミによる広がりである。今では多くの国の富裕層たちからニセコエリアが投資対象として見られているのだ。そしてランドマークは北海道の富士山、蝦夷富士こと「羊蹄山(ようていざん)」である。圧倒的な存在感は「世界のNISEKO」の堂々たるシンボルだ。
当たり前のことだが「住民」という主語を一語で表してもその属性内訳は実に様々である。基本的には元からこの地域で生まれ育った人と、移住者に分けられるのだが、その中においても従事する産業や住むエリアの違いで観光振興や開発行為、外国人観光客に対する考え方もまちまちなのだ。移住者の中には国際結婚後に気に入って暮らし続けている家庭も多い。
私はニセコ町に23年間住んでいる移住者で観光業に携わっている、という属性になる。付け加えるならばこの町で自ら事業を営み、従業員とその家族を養い、雨ニモ負ケズ風評被害ニモメゲズ、自身の家庭の子育てや犬の散歩も楽しみながらこの地に愛着を持って生活をしているのである。
そこに来て冒頭のような報道の見出しに接すると、少し残念な気持ちになるのは無理からぬことなのかもしれない。細かい話になるがメディアが派手に取り上げるような多くの事象、例えば「ニセコ化」や「ニセコ現象」のようなことが起きている主戦場は私の住むニセコ町のことではなく、隣町の一部エリアでのことであったりする。私は穏やかに暮らして行きたいだけなのだ。
あまり知られていないキラリとひかるまちづくり
私が住んでいるのは人口約5,000人の「ニセコ町」である。この小さな町には意外と知られていない人口動態に関する興味深いデータがあるのだ。
例えば「教育移住 北海道で1位」(図1)というものだ。年少人口の増加率が北海道内179市町村で唯一2ケタの増加率である。つまり10年前より子供が11%も増加していることになる。また、「2050年北海道子供の減少率の低さ1位」(図2)ということで将来に向けての人口推計においても14歳以下の人口減少率の低さが道内1位となっている。少子高齢化や人口減少による人手不足が社会問題となる中で非常に稀有な現象が起きている。
(図1)日経新聞電子版より (図2)国立社会保障・人口問題研究所より
ニセコ町の教育環境
教育機関は幼児センター、小学校が2校、中学校と高校が1校ずつあり、インターナショナルスクールについては既存の1校に続き2025年4月にもう1校が開校予定となっている。教育移住目的としての子育て世帯の移住家族が多い印象が強い反面、この地で結婚・出産・子育てをしているケースももちろんある。ちなみに我が家は後者である。私も妻も東京生まれだが、海外放浪中に出会いたまたまこの町で落ち着いた。子育て世帯が増加している理由は、様々な考えの家庭があるので私が代表して一様に語ることはできない。繰り返しになるが我が家の場合は明確な理由はなく「たまたま」ここに住んでいる。
幼少期の子育て環境について
上述したとおり我が家のことしか語ることはできないが、現在ティーンエイジャーとなった3人の我が子たちも幼少期時代にはこの町の豊かな自然環境の中でのびのびと育ってくれたように思う。移住者も多く若い同年代の家族も近くにいたので田舎暮らしながら孤立することもなく、あまり不自由を感じない恵まれた環境だった。特に幼少期に体験させたいスキーや夏山の登山、川遊びなどのアウトドア体験のロケーションとしては抜群である。都市部ではできない体験を手軽に味わえるのはとても価値のあることなのだと改めて思う。
ニセコスタイルの教育として幼小中高で一貫している目指す人物像が「ニセコに誇りを持ちたくましく生きる人」というビジョンを掲げている。まあ、割とどこにでもありそうなスローガンであるが、国際リゾートを抱える町の地域特色として挙げられるのが英語教育に力を入れている点だ。そもそもハーフの子もクラスの1割くらいいる状況で、場合によっては英語の方が得意な子がいるくらいである。幼少期よりクラスに色々な国のルーツの持つ友達との交流は当たり前となっていて、その友達の家に遊びに行くと異国の多文化を感じられるのもよいところだと思う。国際交流が子供たち同士の日常にある感じだ。
また、この町はふるさと学習の取組として地域にある教育資源(国際リゾートでのスキー授業、国際交流員による英会話学習、地域事業者や移住者による総合学習、農業体験、アウトドア体験等)を活用し体験による子供たちの自己肯定感を高める教育実践を目指している。もちろんすべてが順風満帆なわけもなく規模に多少の違いはあれど全国の他の地域と同じように多くのネガティブな教育課題が山積していることは言うまでもない。例えば不登校・教員不足などである。
高校進学について ~シン・ニセコ高校の挑戦~
義務教育を終え高校進学のタイミングで町外へ進学をするケースは珍しくない。これも全国の多くの地方で起こっている現象と同じく進学志向で大学進学などを視野に入れる生徒はその町に残りたくとも都市部の高校へ進学するのはやむを得ない選択となるのだった。
・・・これまでは。
今回本稿で一番取り上げたいテーマが「ニセコ町立ニセコ高校の大改革」についてだ。今まさにニセコ高校の魅力化が「激アツ」となっている。魅力化の取組が奏功し入学希望の生徒数が激増していて今年度は倍率が定員の1.5倍となったのだ。過疎地域にある高校を存続させることは人口流出を防ぐ地方創生の命題となっているが、ニセコ町でも兼ねてからの大きな課題であった。町内の中学校を卒業して町外に進学する生徒がいる事実を受け止め、どのように地域学校としての役割を担っていたニセコ高校を存続させていくかという問題には以前より大きな課題意識を持っていた。だが、進学志向の生徒を都市部の進学校と生徒募集で競っても勝ち目はない。ということで違う切り口からニセコ高校らしい魅力を深めることで活路を見出そうと動き出したのだ。この出来事はこの町で子育てをしている当事者の我が家にとっても大変喜ばしいことである。
ここで特筆すべきは魅力が上がったことで地域の中学校からの進学希望者が激増した点である。町立の高校ゆえ、町内に残りたい子供たちの進学先として選ばれるのが本来の姿ではないだろうか。まさに町の町による町のための高校づくりだ。そのうえで町外や道外、海外からも生徒が集まることによってミックスアップが起こり良い循環をもたらすだろう。彼らの多くが未来の地域の担い手になってさらに下の世代のロールモデルとなる事を願っている。
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