日本は産業競争力を失い、人口減少に見舞われ、不十分な社会福祉体制と指摘されている。政治的に右か左かの論理では、経済か福祉か、あるいは保護政策か自由化政策かという2者択一の議論が多い。福祉重視では産業競争力が低下し、財源が乏しくなり赤字予算が増えるかもしれない。一方で産業重視政策は、能力主義となり、弱者切り捨てとの批判を受ける。政策は極端なものは成功しない。良いものを拾い集める緻密さが必要だ。
フレキシキュリティ(flexicurity―flexibleとsecurityの合成語)は、産業競争力の向上と低所得者の福祉政策を同時に満足させるような政策である。ただし、すべての人に満足を与えるようなものではない。フレキシキュリティ(flexicurity)では、まず、自由を最も重要な考えと位置づけ、さらに法人と個人とを区別する。法人(会社)には自由な環境で、激烈な競争を行うことを促し、救済や補助金などは控える。自由な競争によって、法人の能力を高めることを目指し、競争によって世界で通用する産業を育成する。結果的に不況の時には倒産が増える。
これに対して、個人には自由な職業選択のもとに、競争を促すが、一方で競争社会に合わない個人には十分な保障を行うことを基本としている。働くことが出来る個人への保障の基本は、失業保険である。原則的に、個人は自分の持つ能力を見極めて、それを使うことが出来る職場を探す。例えば、営業能力が高いと自分で考える人は、営業力を売り物にして、その能力を使ってくれる企業を探す。自分の持つ能力が不十分であると考えれば、職業訓練を受けることもできる。だれでも相対的に何らかの強みは持っているので、どの仕事が自分にあっているのか、試す必要があるのだ。この場合、一流大学卒が現場労働者の仕事を試してその仕事に打ち込むこと、そして、優秀な頭脳の人が現場から作業工程を改善することがあっても良い。結果的に労働者は自分に向く仕事を探して、企業を選ぶ。偏差値が高い者が必ずしも管理職などに就くのでなく、自分の好きな現場の仕事(大工や庭師)に就いてもよいのだ。企業側も同様に個人を選択することが出来る。そのマッチングには一定の時間がかかる。そのために、手厚い数年にわたる失業保険を用意する。前述のように、必要であれば、職業訓練も受けることが出来る。
しかし、日本での失業対策の一環である企業を通じての労働者への支援、いわゆる、雇用調整助成金(経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業、教育訓練、出向に要した費用を国が助成する制度)などは行わない。あくまでも労働者と企業とは一体では「ない」のだ。このような政策によって、企業と個人のアニマルスピリッツは保たれる。
それと同じように、不況だからといって、国民全体に何らかの補助金を支給することはない。援助する対象は、あくまでも失業者、低所得者のみである(個人に対しても自由競争の原則は保たれる)。そして、身体的、精神的に問題がない場合には、これらの人たちも職業訓練によって新たな仕事を行うことを勧められる。つまり、「フレキシキュリティ」という制度は、自由競争と弱者支援の2つの考え方を合成したものである。その点から言えば、アメリカは自由競争が幅を利かせ、日本では個人と会社への援助が幅を利かせている。その双方の利点を備えることを目指しているのだ。
問題は、会社に対して何ら支援をしないで激烈な競争を行う余地が日本に残っているかどうかである。日本の会社が保護主義的な産業政策に甘えている間に、企業や個人のアニマルスピリッツが低下しているかもしれない。競争はあくまでも「自由」であり、競争を選ぶか、平穏な生活を選ぶかは個人の自由意志に委ねられる。その原資は、競争を行い成功した個人や企業から、生活の苦しい人への再分配(税や社会保障費)による。この様な大きな再分配によって、社会を支えるのが、フレキシキュリティ(flexicurity)の考えである。従って、アニマルスピリッツがない社会では、自由な競争を行うことが出来ない。人々は慣習や他人の目を気にして生活し、国家の分配を希望している、生産性の向上も見込めない社会では、フレキシキュリティ(flexicurity)も無理なのである。
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