現代はメリトクラシー、つまり、能力社会であると言われる。メリトクラシーの社会では、能力が高く、努力をすれば、良い地位に就くことが当然であり、それに伴って高収入を得ることも問題ないと考えられている(この事自体には疑問がある)。メリトクラシーの社会は昔からあるわけではない。人類が生まれてから殆どの期間は、「階層社会」だった。「階層」を固定して、一面では社会を安定化し、一面では人間を生涯同じ様な立場に固定した。メリトクラシーの宗教的な起源は16世紀からのプロテスタント個別主義である。人間は努力すれば成功するという考えは、昔からあったわけでなく、プロテスタントの個別主義から生まれた。その他大部分の宗教では、個別の優劣は認めず、神の前に平等ということが原則だった。しかし、人々はメリトクラシーの社会を肯定しているように見えるが、全面的に肯定しているわけではなく、貧しい環境、両親の離婚、愛されていないことなどは、不利な生まれ育ちと考え、補償、改善を求める。そのために政府は、貧しい家庭への支援、家庭内暴力の監視、周辺環境の治安維持などを行っている(しかし、あまり成功しているとは言えない)。生育環境は子どもの責任ではなく、改善しなければならないと言うわけだ。また、大学への縁故入学、寄付金による特別入学枠、あるいは、大学に入学するための塾や家庭教師へ金をつぎ込むことなどに対しては、概ね世論は批判的である。ただ、再度強調するが、メリトクラシーそのものに対して批判は少なく、肯定的である。むしろ批判されるのは、メリトクラシーそのものでなく、メリトクラシーに反する行為や習慣、つまり、年功序列型の昇進制度、画一的な横並び給与、努力した人が報われない給与制度などである。
メリトクラシーは、新自由主義との相性が良く、新自由主義が世界に広まった(サッチャー、レーガン主義)時期に世界的に広まり、日本でも肯定的に受け取られた。それまでの儒教的平等主義に基づく年功給制度が批判の対象となり、いわゆる能力給が導入された。
しかし、階級社会が去って能力主義の時代になっても、金持ち階級と庶民階級がどの程度流動化しているかを示す指標はアメリカでもその他多くの国で下がっている。つまり、金持ちは金持ちのまま、貧乏人は次の世代でも貧乏人のままで留まる事が多い。格差の固定化である。多くの分析ではこの理由について、幼少期に教育にかける資金の差と見ている。確かに、公立の小中高の勉強だけでは一流大学に入ることは難しいかもしれない。
メリトクラシーに変わる社会基準をつくれるかと問われると、難しいと言わざるを得ない。専制国家ではなく、民主国家を続けるのであれば、メリトクラシー社会の選択は、致し方ないのだろう。従って、最小限、次のことは人々が認識すべきことである。メリトクラシーの社会で成功したとしても、それは生まれついての「運による」事が多く、自分の努力によるものと勘違いしないこと、謙虚に物事を見る必要があることだ。社会的には以上のことを前提として、地位の差は仕方ないとしても、それに伴う給与の差は最小限に留める必要がある。
社会は、哲学者のジョン・ロールズが「格差原理」で述べているように、「社会が目指すのは、最も不利な立場におかれた人の利益の最大化である」である限り多少の格差は許されることを認識すべきだ。ロールズによると「原初状態」つまり、社会に出るときに自分の能力が全くわからない時という仮想的状況では、自由・平等な社会を参加者全員一致で合意出来るはずであり、このような正義原理が導出・正当化される。これは、格差を最小限にしようとする気持ちである。
社会政策としては、メリトクラシーによる「地位」の差は受け入れなければならないが、「地位」の差に伴う「給与」の差は受け入れるべきではない。その為には、①累進課税を強くすること(例えば5000万円以上の所得には80%程度の累進税率を適応すること)、②利子、株式等にかかる分離課税の税率を引き上げること(現在の20%を30%程度に引き上げること)、などが求められるだろう。そして、可能ならその先にある、金融資産課税にまで範囲を広げるべきである。
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