『「世界の終わり」の地政学』の著者、ピーター・ゼイハンによると、世界人口は、産業革命(科学革命)とともに飛躍的に増加した。この場合は、科学技術の発達が、人口増加をもたらしたのだ。その世界では、分業が加速し、グローバリゼーションが起こった。最初は区域的な国同士の関係だったが、その交易距離は拡大し、世界を覆い尽くしている。アメリカはこの様な関係の後ろ盾となっていた。
経済成長は人口を増加させたが、同時に人口増加は経済成長をさらに促進した。特に人々の消費行動を大きく変えた。消費行動の変化と、人口増加がさらに経済成長を促したのだ。この頂点は、第二次大戦後の1945年から2015年の70年間、中でも特に1980年から2015年に及ぶ冷戦終結後の、「アメリカの世界統治」が大きな役割を果たしている。アメリカが世界の警察官となり、冷戦時には西側諸国に対して、冷戦後は世界に対してグロ-バリゼーションの安全を保証した。自由貿易は正義であると思われ、WTO(世界貿易機関)を始め、多くの機関が作られた。実際に、分業を前提として進化する世界では、一国で生産を完結させることは、不合理極まりないことである。しかし、2015年頃からのグローバリゼーションに対するアメリカの関与縮小が目立ち始めている。この傾向は今後さらに進行する。実際、トランプ氏が大統領になったアメリカは、これまでの世界統治をやめ、ナショナリズムを強め、アメリカのみの利益を追求しようとしている。トランプの後を追うように、それぞれの国はナショナリズムに基づく一国主義を強め、独自に政治を行おうとする。
ナショナリズムはグローバリゼーションの縮小を引き起こす。特にトランプ政権がアメリカの自国第一主義を打ち出し、アメリカ自身がナショナリズムの先頭を切るようになると、この傾向は世界的に広まるだろう。
経済的な合理性に逆らって、グローバリゼーションが拡大から縮小に転じるのは、国内の経済格差の増大という理由による。世界的にみると、国単位の格差は縮小しているが、国内での格差はグローバリゼーションの進展と比例して大きくなる。アメリカで鉄鋼、造船、自動車などの産業が縮小し、コンピュータを始めとするソフトな産業が大きくなったことによって、国内の格差を広げている。
この点は、以前のブログで示したが、再度強調したい。ブランコ・ミラノビッチはその著書『大不平等』のなかで、(図1)のように示している。この図は、横軸に所得階層(発展途上国の住む人の大部分はグラフ左寄り、先進国の人々は右寄り)、縦軸に1988年から2017年までの20年間における実質所得の伸び率を示している。このグラフでは、発展途上国の中間層で所得の伸びが高く80%超を示し、また、先進国の富裕層でも所得の伸びが大きい(60%に達する)。その反対に、先進国の中間層では所得の伸びがほとんどないか、あるいはマイナスになっている。この現象は、先進国の反グローバリゼーションを引き起こす。
このような、国内格差の増大は、特にアメリカで大きいが、その他の先進国でも同じ様な傾向を示し、それに伴う人々の分断を強めている。さらに、経済的格差に加えて、文化的なズレも起こっている。アメリカでの民主党、あるいは欧州の左翼政権が推進してきた、DEI(多様性、公平性、包括性)プログラムを廃止するような圧力が強くなっている。性的マイノリティ、女性、障害者、外国人などに対する優先政策に対する反発である。
このように、国内の格差が大きい国は、ナショナリズムの傾向を強くする一方で人口減少が強い国は、ナショナリズムはさほど無いが、国内産業の不振を招いている。日本のように、国内格差はあまりないが、人口減少によって経済が落ち込んでいる国にとっての解決策は、少子化対策ではない。少子化対策は社会保障政策として必要ではあるが、人口減少対策にはなり得ない。人口減少に対しての対策は、移民政策である。ただし、ヨーロッパを見ると移民政策の不完全さによって、国内の格差を背景とした経済不満のはけ口が、「移民―外国人労働者」になっている。これらは直接的な関係は薄いが、グローバリゼーションによって貧困に陥った人たちにとっての、感情的な反応としては絶好の対象である。
日本は、意図しなくても今後外国人労働者の大量流入が起こることは確実であるが、日本国内での外国人排斥運動が起こらないようにしなければならない。そのためには、外国人労働環境を常に監視し、不適切な企業を抽出する必要がある。最重要な原則は、「同一労働同一賃金」である。
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