在宅介護での変化の必要性

「住まいは高齢ケアの基本である」ことから言えば、高齢で障害があっても、最良の住まいである自宅での居住を継続することは、最も重要な選択であると言える。高齢で障害を保つ場合の自宅での生活は、2形態が考えられる。一つは、「介護者と一緒に自宅で生活している場合」、二つ目は、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」である。介護者と一緒に生活する場合とは、子との同居世帯や、高齢者夫婦所帯であり、介護者が乏しい状態とは、高齢者夫婦所帯の一部と、高齢者単独所帯だ。問題は日本の居宅介護行政(有料老人ホーム等の施設は除く)の多くは、「介護者と一緒に自宅で生活している場合」を想定している場合が多い。「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」が増えているにも関わらず、である。

「介護者と一緒に自宅で生活する場合」は、介護者が主体となり、それを支えるために、公的居宅サービスが加えられる。主たる介護は一緒に生活している介護者が担当するので、公的居宅サービスの目的は、「介護者への過度な負担を除く事」になる。公的居宅サービスは、細かい介護内容をいちいち検討する必要はない。従って、「介護者と一緒に自宅で生活する場合」の居宅サービスは、「介護者への過度な負担を除くため」の、デイサービスや滞在型の訪問サービスとなるだろう。一方で、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」は、公的居宅サービスが介護の主体とならざるを得ない。高齢者の細かい生活にまで目を配らせ、頻回の援助を行う。「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」の公的居宅サービスは、巡回型の短時間訪問を主体とした介護になる。どちらが難しくて、どちらが簡単であるかは明白で、後者の巡回型訪問介護を行う方が技術的に困難である。「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」が増加しているにも関わらず、この分野で、ケアマネジメントの能力の不足が著しい。そして、社会一般の認識も乏しい。

日本で、介護保険が始まった時期は、介護者と一緒に自宅で生活する世帯が多かったので、公的居宅サービスは、「介護者への過度な負担を除くため」のサービスとなった。一緒に生活する介護者があくまでも主役であった為、公的居宅サービスとして、デイサービスや、滞在型の訪問介護が行われてきた。介護保険発足から20年以上経過し、高齢者の居住状態は大きく変化した。「介護者と一緒に自宅で生活する」世帯の急速な減少と、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する世帯」の増加である。しかし、公的居宅サービスはその性格を変化させず、あくまでも、「介護者と一緒に自宅で生活する場合」を前提として、「介護者の過度の負担を除く」サービスに終始していたために、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」には、きめ細かい公的居宅サービスが行われず、高齢者は施設への道しかなくなり、介護施設の増加による、介護職員の不足を招いたのである。

これを改善するためには、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する世帯」の増加に合わせ、公的居宅サービスを変化させる必要があり、高齢者の生活に対応した巡回型訪問サービスを充実させることだ。その結果、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」であっても、最良の場所である自宅で暮らすことが出来るような社会が出来上がるはずであった。しかし、必ずしもそうはならなかった。


問題は、「介護者と一緒に自宅で生活する」所帯から、高齢者単独あるいは高齢者夫婦所帯つまり、「介護者が乏しい状態で、自宅で生活する場合」への移行に、社会政策を合わせられるかどうかなのである。まず、要介護かどうかに関わらず高齢者単独世帯への住まいの確保である。これには、高齢者単独所帯への賃貸住宅の提供(社会問題として、高齢者への賃貸住宅の拒否がある)が必要だ。日本の他の政策においても、社会環境の変化に対して、柔軟に制度を変化させることが出来ないことはよくある。これは政治の能力と見られがちであるが、本当のところは、日本人自体が保守的であり、農耕民族的で、外圧がないと変えられない、つまり、自分から変化しない性質にあるのかもしれない。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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