歯医者が街でできること

2017.12.15

私は東京都新宿区を中心に訪問歯科診療を実践する歯医者です。私が訪問診療を始めたのは1997年、今から20年前。その当時、時代は大きな潮目に入ったところでした。病院でのケアから在宅ケアへという時代の流れの中で介護保険法が成立し、施行に向かってケアマネジャーの試験が始まったりしていました。また、誤嚥性肺炎の予防効果が期待できるという事で口腔ケアが注目され始めました。

 

私自身は、在宅ケアを受けている高齢者のほとんどの方が、入れ歯を外されている現実を知り、その入れ歯を入れるために訪問を始めました。しかし、すぐに口腔ケアも僕たち歯科医の役割となりました。もちろん、僕たちはむし歯や歯周病予防の歯磨きはプロフェッショナルですが、誤嚥性肺炎、口腔ケアという言葉すら聞いた事も無かったので、最初は何をどうするのかも分かりませんでした。しかも、診療室で患者さんを横倒しにして診察するのではなく、寝たきりの高齢者の口の中を覗き込むのも当初は苦労しました。

当時、口腔ケアという言葉はあるものの、在宅の患者さん達の口の中は惨憺たるものでした。病院では一切ケアされておらず、口の機能の低下と共に汚れはひどくなり、歯垢（プラーク）や歯石などではなく、数日前と思われる食べ物そのものが残っている方も多くいました。現在では口腔ケアも定着し、当時と比べると格段にきれいになっています。

 

さて、なぜ口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できるのでしょうか。


実は社会的に大きな誤解があります。口腔ケアによってお口の中の細菌が減少し、肺炎が予防されると思われています。もちろんその効果もあるのですが、実は口腔ケアによってしっかりと口を刺激することで、飲み込みの機能が向上するのです。

食べる機能が低下さえしていなければ、しっかりと噛んで食べることで口は刺激されています。しかし何らかの状況で口から食べていない人は刺激が少なく、飲み込みの機能も低下しています。そこで、口腔ケアによって口を刺激すると、再び飲み込みの機能が向上します。これこそが誤嚥性肺炎の予防効果。つまり、口腔ケアとは口の環境を整え、食べる機能を向上させることなのです。


まさに、歯科の本分である「食べることを支える」のが口腔ケアと言えます。

そして地域食支援へ

外された入れ歯を入れるところから始まった私の訪問診療でしたが、口腔ケア、そして食べる機能向上にも守備範囲が広まっていきました。全く未知の世界だった飲み込みの機能が低下した方への対応も、経験の中でできるようになりました。しかし、「食」を支えるためには口の環境や食べる機能の改善だけではなかったのです。

 

全身状態の管理、食事姿勢、周囲の環境（テーブルやいすなど）、食事形態など多くの因子がありました。これらを歯科だけでカバーできるわけがありません。実は、それぞれにプロフェッショナルが居たのです。全身状態を管理する医師や看護師、食事姿勢を作る理学療法士、周囲の環境を整える福祉用具専門相談員、食事形態を調整する管理栄養士などの皆さん。

 

現在、私たちが活動する東京都新宿区には新宿食支援研究会というものがあり、実に25以上の職種で構成されています。

「食」は生活そのものです。食支援は生命（いのち）の支援なのです。

ふれあい歯科ごとう代表五島 朋幸
1965年広島生まれ。1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。現在に至る。博士（歯学）。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、東京医科歯科大学非常勤講師ほか。新宿食支援研究会代表。1997年よりラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」（全国15局で放送）パーソナリティーを務める。著書に、「口腔ケア○と×」（中央法規）、「愛は自転車に乗って　歯医者とスルメと情熱と」「訪問歯科ドクターごとう①　歯医者が家にやって来る!」（大隅書店）など。
1965年広島生まれ。1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。現在に至る。博士（歯学）。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、東京医科歯科大学非常勤講師ほか。新宿食支援研究会代表。1997年よりラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」（全国15局で放送）パーソナリティーを務める。著書に、「口腔ケア○と×」（中央法規）、「愛は自転車に乗って　歯医者とスルメと情熱と」「訪問歯科ドクターごとう①　歯医者が家にやって来る!」（大隅書店）など。
2017.12.15
最新の記事がすぐ読めるメールマガジンの無料登録をご希望の方はこちら
あなたの原稿が掲載される寄稿をご希望の方はこちら
  • 社会福祉法人敬友会 理事長、医学博士 橋本 俊明の記事一覧
  • ゲストライターの記事一覧
  • インタビューの記事一覧

Recently Popular最近よく読まれている記事

もっと記事を見る

Category カテゴリー

Writer ライター