日本の介護保険制度は、2000年の制度開始以来、家族依存から社会全体での支援への転換を実現し、介護の社会化を実現してきた。しかし、2024年11月13日の財務省財政制度等審議会(財政審)は、このモデルの限界と、新たな転換の必要性を示している。
財政審での議論
財政審での介護に関連する主要な議論では、介護費用の増加、改革の必要性、経営の大規模化と協働化、テクノロジーの活用、人材紹介会社への規制強化などが主要な議題となった。特に、高齢者人口の増加と現役世代の減少が続く中で、介護の社会化を維持するための抜本的な改革が求められている。
主要なポイントとしては以下である。
1. 介護費用の増加
2024年度の介護費用は約14兆2000億円であり、介護保険制度が始まった2000年度の約4倍に達している。また、介護保険料は全国平均で月6225円となっており、今後も増加が見込まれている。
2. 改革の必要性
高齢者人口の増加と現役世代の減少が続く中で、さらなる改革が不可避であると指摘している。特に、特別養護老人ホームへの入所基準や利用者負担の適正化などが進められている。
3. 経営の大規模化と協働化
複数の小規模事業者が連携して経営を効率化する「経営の協働化」や、大規模な施設運営を推進することが重要である。これにより、人材確保や業務効率化を図り、全体的なコスト削減が目指されている。
4. テクノロジーの活用
ICT(情報通信技術)や見守りセンサーなどのテクノロジーを導入し、業務効率化を進めることも求められている。これにより職員の負担軽減やサービス向上が期待されている。
5. 人材紹介会社への規制強化
民間会社を通じた人材採用に伴う高額手数料や高い離職率を問題視しており、紹介手数料の透明化や就職祝い金の禁止などを検討している。
軽度認知症者への支援への懸念
介護費用についての数字は、日本の介護の社会化が高度に進展していることを示すと同時に、その持続可能性への警鐘でもある。人口減少社会における現役世代の急減は、介護の担い手と財源の双方を直撃する。従来の普遍主義的なアプローチからの転換を意味し、要介護1、2の軽度者への介護サービスを市町村運営の地域支援事業へと移行し、専門的なケアを重度者に集中させる。これは、限られた資源の最適配分を目指す新たなモデルの構築である。しかし、認知症の介護には懸念が残る。認知症の症状は個々に異なり、要介護1、2の軽度者と認定されたとしても相当の介護を必要とすることもあり、支援を必要とする家族にとって大きな負担を強いることが進行してしまう可能性がある。今後、介護認定に係る医師の診断やケアマネジャーの支援がさらに重要となってくる。
介護保険制度の原点回帰と新たな展開
人口減少社会における介護の革新は、いくつかの方向性が示されている。専門職だけでなく、地域住民やボランティアなど多様な担い手による重層的な支援を可能とする地域包括ケアのさらなる必要性である。地域住民による非専門職「介護アテンド職」の導入の事例もあり、誰もが介護にかかわる体制が進められている。平成11年の厚生白書内で介護保険制度を含む社会保障は、私的な相互扶助の代替えであり、ケアの社会化であることが明記されており、その体制の維持には反しない方向性を模索しているといえる。
人口減少社会における介護の未来
人口減少社会において、介護のあり方は大きく変化しつつある。財政審の提言は、介護の社会化を後退させることなく、新たな時代に適応させていくための重要な指針となる。しかし、介護の社会化を進める上では、軽度認知症者への支援など、解決すべき課題も残されている。
介護の社会化を後退させることなく、新たな時代に適応させていく。介護難民の発生や地域間格差の拡大は、社会的包摂の理念に反する。財政審の議論は、日本の介護が直面する岐路を示している。それは単なる給付抑制策ではなく、人口減少社会における新たな介護の姿を模索する試みである。世界に先駆けて超高齢社会に入った日本は、今また人口減少社会における介護モデルを模索する。テクノロジーの活用、多様な担い手の育成など、具体的な施策の実現が急務である。
参照文献
財務省. (2025). 令和6年度における財政の状況. 財政制度分科会(令和6年11月13日開催)資料. 2024年12月11日閲覧. https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/20241113zaiseia.html
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