※英訳は、日本語文の後に掲載しています。
筆者は、2023年からインドネシアの送り出し機関に関する調査や日本における受け入れ体制の調査を行っている。
2024年11月に茨城国際交流協会を対象として行った研究調査では、日本の多文化共生の未来において、日本人が外国人の文化や習慣を理解する重要性が強調された。現在の多文化共生に向けた活動は、単なる交流の場を提供するだけでなく、共に生活する上での課題を認識し、それらの解決に向けた具体的な取り組みが求められている。これは、日本社会において、言語や習慣、さらには意識の壁を取り除く努力が必要であることを示している。
外国人住民の多くは母国で培った信仰を日本でも継続し、集団で宗教的な儀式や集まりを行っている。このような宗教的習慣は異国での生活において精神的支えとなり、帰属意識を育む重要な役割を果たしている。エミール・デュルケームの社会的連帯理論によれば、宗教は共有された信念や価値観を通じて共同体内で個人を結びつけ、社会全体の一体感を高める力を有している。したがって、宗教的儀式や慣習は、異国の地でも精神的支えと帰属意識を提供し、日常生活における安心感をもたらすものである。
茨城県では外国人住民の増加に伴い、イスラム教のモスク、ヒンドゥー教の寺院、仏教寺院、インドネシア人コミュニティが運営するキリスト教会などの礼拝施設が整っている。これらの施設は外国人住民が安心して信仰を守り、宗教的活動に参加できる環境を提供している。たとえば、インドネシア最大のイスラム団体ナフダトゥル・ウラマは2021年に古河市にモスクを設立した。また、スラウェシ島のマナド族が設立したプロテスタント教会は大洗市に複数存在し、長年にわたりインドネシア人の精神的な支えとなっている。礼拝施設は礼拝の場に留まらず、インドネシア人コミュニティの集会の場としても機能しており、職場環境の悩みや生活上の課題を相談できる重要な場となっている。これは、信仰を通じた心身の癒しやコミュニティの連帯感を支える役割を果たしている。
また、古河市のインドネシア人モスクから車で約10分の長岡市に位置する光明台霊園には、ムスリム向けの墓地が整備されている。神社が所有するこの墓地は、2010年7月2日に「Muslim Graveyard Ibaraki, Japan (MGIJ)」として建設され、ムスリム専用の土葬用墓地として60区画が用意された。日本全国でムスリム向けの墓地提供に対しては批判の声が上がることが少なくないが、光明台霊園では古くから土葬の風習が根付いていたため、反対意見が全く出ず、地域社会にも自然に受け入れられている点が特筆すべきことだ。
しかし、外国人住民の宗教活動が地域社会で誤解を招く場合もある。たとえば、炊き出しや衣類提供などの支援活動が「布教活動」や「怪しい団体」と見なされることがある。また、外国人技能実習生が礼拝活動に参加する際、「神に祈っても給料はもらえない」という発言がされる場合があり、こうした偏見の解消が課題である。今後は、地域の外国人宗教団体をリスト化し、地域住民との連携を強化することが求められる。自治体が外国人宗教団体と協力し、地域社会に貢献するための情報を共有することは重要である。外国人住民も地域社会の一員として受け入れられるようサポートされるべきである。
茨城県の現状と課題は、他の地域にとっても有益な情報となる。外国人コミュニティが日本社会に貢献し、正当に評価されることが多文化共生の進展には不可欠である。茨城県での取り組みは全国の多文化共生活動の一助となり、異なる文化と信仰が共に共生できる社会の実現を目指す上で意義深いものである。
日本における政教分離の原則は、宗教と行政を分けることを基本としているが、外国人住民が増加する中で多文化共生を促進するためには、行政機関と外国人コミュニティの連携が重要である。特に外国人によって設立された宗教コミュニティは、文化的・精神的支援の場として重要な役割を果たし、これを通じて外国人住民は互いに助け合い、地域社会に溶け込むための基盤を築いている。宗教的ネットワークと行政が情報を共有し、協力体制を築くことで、外国人住民の生活支援や異文化理解が効果的に促進され、日本が選ばれる国としての可能性が高まるであろう。
(本研究は、笹川平和財団が主催する研究テーマ「日本におけるイスラームの実像」の一環として実施されたものである)
A research survey conducted in November 2024 with the Ibaraki International Association highlighted the importance of Japanese people understanding the cultures and customs of foreigners for the future of multicultural coexistence in Japan. Current multicultural coexistence activities are not merely about providing opportunities for interaction but also about recognizing the challenges of living together and implementing concrete measures to address them. This underscores the need for efforts to break down barriers related to language, customs, and perceptions within Japanese society.
Many foreign residents in Japan continue practicing their faiths and engage in religious ceremonies and gatherings as they did in their home countries. Such religious practices provide vital spiritual support and foster a sense of belonging in an unfamiliar environment. According to Émile Durkheim’s theory of social solidarity, religion binds individuals within a community through shared beliefs and values, enhancing societal cohesion. Therefore, religious rituals and practices offer foreign residents not only spiritual sustenance but also a sense of security in their daily lives.
In Ibaraki Prefecture, the growing population of foreign residents has led to the diversification of religious facilities, including mosques, Hindu temples, Buddhist temples, and Christian churches operated by the Indonesian community. These facilities provide safe spaces for foreign residents to maintain their faith and participate in religious activities. For example, Nahdlatul Ulama, Indonesia's largest Islamic organization, established a mosque in Koga City in 2021, offering a place of worship for local Indonesians. Similarly, Protestant churches founded by the Manado ethnic group from Sulawesi Island have long supported the Indonesian community in Oarai Town. These facilities not only serve as places of worship but also function as gathering spaces where individuals can share workplace concerns and life challenges. They play a crucial role in fostering emotional well-being and community solidarity through faith.
Additionally, a Muslim cemetery is located in Komyodai Cemetery, just a 10-minute drive from the Indonesian mosque in Koga City. This cemetery, owned by a Shinto shrine, was opened on July 2, 2010, as the "Muslim Graveyard Ibaraki, Japan (MGIJ)" and provides 60 burial plots exclusively for Muslims. Unlike in other parts of Japan, where Muslim cemeteries often face criticism, this facility encountered no opposition due to the region's long-standing tradition of burial, making it a noteworthy example of natural acceptance within the local community.
However, misunderstandings about religious activities by foreign residents can sometimes arise within local communities. For instance, support activities such as providing meals and clothing are occasionally misperceived as proselytization or suspicious group actions. Additionally, discriminatory remarks such as "Praying to God won’t earn you a salary" are sometimes directed at foreign technical trainees participating in religious practices. Addressing these biases remains a challenge. Moving forward, compiling a directory of foreign religious organizations within the prefecture and strengthening collaboration with local residents will be essential. Municipal governments should work with foreign religious organizations to share information and contribute to the community, ensuring that foreign residents are supported as integral members of society.
The current state of affairs in Ibaraki Prefecture offers valuable lessons for other regions. Recognizing and appropriately valuing the contributions of foreign communities to Japanese society is essential for advancing multicultural coexistence. The initiatives in Ibaraki serve as a meaningful step toward realizing a society where diverse cultures and faiths can coexist harmoniously.
While the principle of separation of religion and state remains a cornerstone of governance in Japan, the increasing presence of foreign residents calls for closer collaboration between administrative bodies and foreign communities to promote intercultural harmony. Religious communities established by foreign residents serve as critical spaces for cultural and spiritual support, enabling mutual assistance and integration into local societies. By fostering information-sharing and cooperation between these religious networks and administrative bodies, effective support for foreign residents and deeper intercultural understanding can be achieved, enhancing Japan’s appeal as a destination of choice for people from diverse backgrounds.
(This research is part of a study sponsored by the Sasakawa Peace Foundation under the theme "The Reality of Islam in Japan (日本におけるイスラームの実像)")
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