ドナルド・トランプ氏が次期アメリカ大統領に選ばれた。世界的な「右傾化」の流れに基づくものだと言えるし、それは「ナショナリズム」を刺激する。彼が唱えているのは、「MAKE AMERICA GREAT AGEIN」つまり、アメリカを再び強くすることだ。この傾向(右傾化、ナショナリズム)は、アメリカのみならず、世界的な潮流である。フランスのルペン氏、ドイツのAfD、イタリアのメローニ首相、ハンガリーのオルバン首相、そして、ロシアのプーチン政権、中国の習近平政権なども根本には強いナショナリズムを持っている。これらの国々、あるいは指導者たちは、表題の「ナショナリズムの台頭とグローバリゼーションの衰退」を表している。
人類が個々の利害を超えて、広く連帯する傾向は、共産主義、社会民主主義では明らかであり、民主主義に基づく国家間であれば、人間の知性に訴えて、国境を超えた連帯が実現する可能性もあった。国連を始めとして多くの国際組織は、国同士がお互いに助け合い、連帯することを目指していたのである。このような運動は、国内の連帯がその基礎となるが、さらに根本には、それぞれの国の良好な経済環境が必要となる。「It's the economy, stupid(経済だよ、愚か者め)」なのである。その点で、1945年から2015年までは、経済にとって非常に良い時期であった。非共産圏諸国では、アメリカの傘の下、国同士の交易は飛躍的に盛んになり、紛争地域を除き、それぞれの国が比較優位の原則のもと、所得を向上させた。特に1950年から1980年はゴールデンエイジとも呼ばれ、国内の所得格差が縮まり、中間所得層が広がった。日本の高度経済成長も同時期である。しかし、1980年代になると、経済は停滞し、各国ではそれまでの社会民主主義的政策から、レーガン・サッチャー革命などを経て、新自由主義的政策へ変わっていった。この政策では経済の成長は再び高まったが、世界と国内双方に貧富の格差をもたらした。新自由主義的政策が強かったイギリスとアメリカは特にその傾向が強い。
トランプ政権やその他の国の右傾化の背景には、国内の格差拡大がある。グローバリゼーションは、生産のサプライチェーンを作り、世界中の最適なところ(価格が安く、品質も良いところ)で、生産を行うように工程を作り上げる。例えば、アップルのスマートフォーンは、設計、部品、組み立てなどの工程ごとに、アメリカ、台湾、日本、韓国、中国などの適地で生産される。従って、過去の工業地帯であったアメリカでは、頭脳の使用はあるが、製品づくりは行わない。その代表格が自動車である。その結果、国内の所得格差が強くなった。ブランコ・ミラノヴィッチは『大不平等』のなかで、グラフを用いて所得格差がどこに生じているかを示している。
(図1)ブランコ・ミラノヴィッチ「エレファント・カーブ」
この図は、1988年から20年間の世界での国民一人あたりの所得の伸びを縦軸に、所得分布(例えば一人当たり年間300ドル程度の低所得者から1000万ドル以上の高所得者まで)を横軸に取っている。横軸の右側、所得分布が高い領域は先進国の国民が相当し、左側の低い領域は発展途上国の国民である。
グラフでは、グローバリゼーションのおかげで、新興国中間層の所得は飛躍的に上昇(20年間で、70%以上)しているし、先進国の高所得層でも所得の伸びは高いが、先進国の中間層、つまり一般労働層、現場営業職や事務職を含め伸びがないか、場合によるとマイナスになっている。反グローバリゼーションを支持し、ドナルド・トランプを大統領に選んだのも、アメリカの中間層である。
今後、グローバリゼーションの揺り戻しが国内右派によって引き起こされる可能性がある。特にアメリカではその可能性が高い。はたして一旦成立したグローバリゼーションが逆回転するかどうかは不明だが、グローバリゼーションが停滞したときに、アメリカのように一国で必要なものを調達できる国と、日本のように貿易によってのみ、ものを獲得できる国とでは、重みが大きく異なる。その点で日本は、今後グローバリゼーションが低下する試練の時代に、どのような方向に舵を取っていくかが試される。
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