「失われた30年」を経た日本、経済大国と言われながらも、国際的には決して主導的地位につかなかった日本、そして、バブル以降低迷を続け、その低迷が何らかの希望をもたらすことはないと考えられる日本を見ると、85年前の太平洋戦争の傷跡が大きな影響を及ぼしていることに気付く。太平洋戦争の前と後では、日本人の気質が変わったようだ。太平洋戦争は明治の黒船来航とよく比較される(いずれも外圧によって日本の政治形態が変更されたこと)が、この2つには大きな違いがある。
ケネス・B・パイル著『アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで』には、この相違が大きく取り上げられている。明治維新では強い外圧があったが、その外圧はあくまでも日本人が感じる「圧力」であり、外国政府が日本に直接干渉したわけではない。これに対して、太平洋戦争後の圧力はアメリカによる「日本占領」である。日本占領の根拠は、日本の「無条件降伏」による。
一般に無条件降伏は、相手の国土を占領して、統治機構を作り変える意味を持つ。第二次大戦後、連合国は、ナチスドイツに対して無条件降伏を迫った。これは、ナチスドイツがそれまでの国家とは全く異なったものであったため、例外的に突きつけたものである。一定条件のもとに戦争を終わらせるそれまでの慣習から言えば、日本の植民地をすべて差し出す代わりに、日本の統治機構を温存する条件でも良かった。
もしも、無条件降伏でない対日要求と日本側の受け入れがなされた場合、戦争責任をめぐり、日本国内では大きな混乱が生じ、場合によっては軍部と民衆との間で、内戦に近い状態になったかも知れない。しかし、内戦に近い混乱が起こった結果、民主的な政府が出来上がった可能性もある。この政府は与えられたものでなく、自らが勝ち取ったものである。この様な民主的政府は、それまでの日本の慣習を一掃し、新しい日本が生まれたかも知れない。しかし、太平洋戦争後の日本では、民衆の蜂起や力でなく、アメリカから押し付けられた、いわゆる「タナボタ」式民主主義が行われた。その結果、民衆や政府は、自分たちで民主主義を作り上げる実感を持たないまま、それまでの慣習とは異質の「民主主義」という形態を押し付けられたのだ。この変化は、それ以降も日本の政治文化に大きな影響を与える。
試練を経ない状態で生まれた戦後の日本は、政治形態を与えられたアメリカに依存するようになった。そして、1945年以降、共産圏との冷戦が始まったので、日本に左翼政権が誕生する可能性があれば、アメリカがそれを認めないようになった。従って、民主的な政府というより、反共政府が求められた。占領政策も大きく変わったのである。結果的に、アメリカに依存する代わりに経済的な成長を得たのである。その代償としては、日本はアメリカ追随の政治を行うようになった。しかし、問題の核心はそこにはない。
保守本流が目指した、アメリカに依存し、経済的繁栄を勝ち取る、人権や平等を表面上は尊重し、憲法遵守、表面上軍備を持たない建前の一方では、戦前からの日本古来の慣習を続け、押し付けられた民主主義と従来からの慣習とが混在する奇妙な形態を続けたのである。現在の日本人の特徴である、議論をしないこと、リスクを回避すること、他者への依存が強いこと、などからくる自立性の不足にどのように対処するかについては、解決方法が見当たらない。
マスメディアが政府の失態を非難するとき、政府(あるいは野党も)の政策決定は、民衆の意向を反映したポピュリズム的な決定であり、民衆が変わらなければ、政策も変わらないことを報道しない。直接的な政治の失態、例えば、政治と金の問題や議員の世襲などは、「選挙民が選んだ」政治家によって行われたものであり、選挙民にも責任があるので、それらを非難する場合は、その政党や政治家に投票しないなどの行動が必要となる。政治を自らの手に取り戻すこと、自立的に意見を持ち、決定を下すことなど、選挙民自体の意識改革が必要となるのだ。「政治は誰かがやっていて、自分たちは極めて部分的に参加するだけである」「お上が決めたことは変えられない」などの考えから、「自立的に自分たちが政府を作るのであり、政府の失態は自分たちの選択の失敗」であるとの感覚を持たねばならない。
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